「♪~」


 隣から聞こえてきたのは、私の鼻唄に答えるような甘い対旋律。


 はっとしてタスクを見上げた。急に止まった私の鼻唄に、彼のメロディも急ブレーキをかけられた車のようにストップした。


 ボサボサで癖っ毛の前髪の向こうで、見開かれた瞳と視線がぶつかる。
 タスクはそのまま持っていた傘を私に押し付けて、逃げるように走っていった。


 私はその場に立ち尽くした。


 束の間のデュエットが、頭の中でループする。どんどん大きくなるビートが、雨の音なのか心臓の音なのか分からなかった。