それは、5日前の金曜日。


 私の10歳年上の兄、ワタルは楽器店で働いている。吹奏楽部でサックス吹きの私は、吹き口につけるリードを買いによくここに来る。


「もう折っちゃったの?」


 兄に言われて、私はぷうっとむくれた。


「折っちゃったって、エイゴさんのスティックじゃないんだから」
「誰がスティック折りまくってるって?」


 背後からの声にビクッとしたけれど、エイゴさんは売り物のスネアドラム用スティックを指でくるくる回しながら笑った。彼は、兄の組んでいるバンドのドラマーだ。


「事実だろ」


 兄がそう言うと、エイゴさんはガハハと豪快に笑った。