ライブが始まった。


 私はまた壁にもたれて、暴れる兄たちを見ていた。ステージ上の彼らはキラキラしていて、心から楽しんでいるようだった。


「はぁ」


 溜め息がこぼれた。それと同時くらいに、不意に声をかけられた。


「なあ、……」 


 私は顔を上げた。しかし、その声の主の顔は影になって分からない。


「タスク、そろそろ行くぞ」
「……わり、何でもない」


 タスクと呼ばれた彼は、後ろから来た同じバンドのメンバーと思しき人に声を掛けられると、そのまま舞台袖へ行ってしまった。


(タスクさんって、次のバンドのボーカルの……)


 そう思うが早いか、白い光がステージを照らすと、一際大きな歓声が小さなライブハウス内に響いた。