全てを持ち去ったあの夜に嘆く事よりも
今、貴方に問いたい
ねえ、京介
私達が同じ時代を生きた証って
なんだったんだろう――
―――後輩―――
「美咲先輩〜
時代錯誤しちゃってますね。そのセーラー服の刺繍。
今時、硬派って古くないですか?」
中学の卒業式。
校門の前で大量の花束を手に持ち、みんなに囲まれる私。
八代美咲。
背後から声をかけ私に近寄ったのは、後輩の京介。
京介の手には、
私の好きな華が一本だけ握られていた。
「ば〜か。
この渋さが分からない奴は、一生私の彼氏になれねーよ」
「あはは。
卒業おめでと、先輩」
卒業式用にウェーブをかけた私の自慢の金髪に、
京介は一本のバラを刺して笑った。
「キザな事するねえ~
そんなに私に惚れてもらいたいの?」
「あはは。
バラ一本で惚れてもらえるなら安いっすね」
「歳の数だったら臭すぎて笑えないって…」
私の両手いっぱいの花束の中にバラは一本も無く、
不覚にも、この晴れ舞台に私の一番好きな華をくれた少し生意気な後輩に、
今日、一番の感動を貰ってしまった。
「あー、バラじゃん!
ちょっと京介、私のは?」
知らない後輩に写真をせがまれていた親友の綾が、私の頭に刺さったバラに気づいて近寄って来た。
「ごめん、綾先輩。
一本しか咲いてなかったんだよね」
「はあ?そんなわけねえだろ。
あんたホント美咲のこと好きだよね」
「あはは、違うって。
荒井先輩から短ラン引き継ぐついでっすよ」
同級生の荒井が着ていた短い学ランは、私の一個上の兄貴が先輩から貰った物で、
いつの間にかうちの学校では、代々、頭がそれを着れると定着していた。
私のセーラー服の背中に入った刺繍より、
むしろ、そっちの方が時代錯誤だと思う。
京介と私が話していると、ふと視線を感じた為、振り返ると、
私と綾が一番可愛がってる後輩の優香が、花束を手に持ち、少し離れた所から私達をボーっと見ていた。
優香は私と目が合うと、
ハッと気恥ずかしそうに近寄って来た。
「…先輩、卒業おめでとうございます」
少し照れながら、私と綾に花束をくれる優香。
「サンキュー。
ごめんな優香、高かったろ、この花束。
先輩の頭に華をぶっ刺す誰かさんとは大違いだね」
「あ…いえ…」
優香はそう言って私の頭に刺さったバラを見つめると、少し寂しそうに笑った。
わかりやすい女心に、
私は少し、胸を痛める。