その日以降、俺が3年の先輩に金銭を要求される様な事は無かったが、ジュース買って来てなどの、軽いパシり扱いを受ける事が度々あった。

それと同時に、風当たりも少々キツくなった様にも感じた。






「邪魔だって、楢崎」


「イテッ‥スミマセン!」





グローブで後頭部を叩かれたり、すれ違う時は意味も無く尻を蹴られたりと、他の1年に対する接し方とは明らかに異る様に思えた。





「なんか‥日に日に先輩のドツキがキツくなってきてる気がする」





部活後、野球部の部室でボール磨きをしながらそうボヤくと、忍がそれに答えた。





「コエーな、エロビデオの恨み」


「逆恨みとかマジ勘弁‥‥」





愚痴りながらボールを磨いていると、そこへ顧問の先生が入って来た。





「西岡、なにやってんだお前」


「‥‥ボール磨いてます」


「お前はやらなくていいって言っただろ」


「いや、後片付けじゃないですし、別にボール磨いて肩を悪くするとかもないんで」


「口答えするな。お前はこいつらとは違うんだ。余計な事はしなくていい」


「‥‥‥」






先生は吐き捨てる様にそう言うと、部室から出て行った為、俺は忍が左手に持つボールをヒョイッと取り上げた。





「先に出てろよ。あとはやっとくから」


「‥‥悪い」


「‥‥‥」





こういう時、周りのみんなが無言になって重くなる空気が嫌いだった。

別に誰が悪い訳でもないのに。





「む‥村ちゃん、昨日のベストイレブン観た?」


「風呂から上がったらサザンと百恵ちゃんが終わってて泣いた」


「アハハ、最悪じゃん」





特別待遇なんて、ただ羨ましいだけ。

あいつが良い奴って事は分かったけど、こう何度もあんな顔をされると少しだけイラつく。






「‥‥‥」