忍が呆れた声で俺を呼んだと同時に、近くにタムロしていた野球部とは別グループの先輩の一人がスッと立ち上がり、

缶コーヒー片手に潰れた上履きでペタペタとコチラヘ近寄って来た。







「卑劣だねぇ~丸刈り軍団」


「‥‥‥」「‥‥‥」






その男は一見、どこにでも居る普通な感じの男なのだが、その一声で野球部の3年達は全員が緊張した様子で顔と身体を強張らせた。







「1年相手にヤクザすか、山岡くん」



「い‥いや‥ハハハ‥‥」






その男に続き、立ち上がってコチラヘゾロゾロと近づいて来るメンツの風貌を見て、俺と忍はスグに理解した。


彼を中心に野球部の先輩達を取り囲む先輩達は、リーゼントや短ラン、ボンタンなど、彼以外は一目で分かる昭和の不良達。


見た目こそ普通だが、立ち位置や振る舞い的に、彼はウチの中学の頭だ。







「似合わねえよ、お前らに暴力は」


「う‥うん、ゴメン‥牧村くん‥」


「アハハ、なに謝ってんの、お前」


「い、いや‥ハハ‥」


「良かったな、後輩。

タダでくれるってよ、そのビデオ」


「え‥」






すると、牧村という男の言葉を聞いた先輩が、慌てて先ほど俺から巻き上げた2千円を返してきた。






「ほ、ほらよ。ビデオは‥タダでやるよ‥

悪かったな、楢崎」


「あ、いえ‥」






千円札を渡す手が、小刻みに震えていた。






「‥‥‥」







呆気に取られながら金を受け取り、再び牧村という男に視線を向けると、彼はニコッと微笑んだ。







「弱いだろ、お前」


「え‥‥」


「ココ」







牧村という男は、そう言って人差し指で自分の胸をトントンと叩いた。







「そっちの後輩は、強そうだけどな」


「‥‥‥」「‥‥‥」


「もう行っていいぞ」


「‥はい、失礼します‥‥」