【序章】






中学入学と同時に俺は隣町から引っ越して来た。


右を向いても左を向いても知らない奴ばかり。

けど、後ろには一人だけ知っている奴が居た。





「西岡、オレ分かる?」


「‥‥?」





西岡忍は隣町でも有名な少年野球のピッチャー。

これまでに何度か対戦した事もあり、俺はこいつの才能に惚れていた。





「‥ああ、丘小の捕手?」


「正解。楢崎大樹(ナラサキタイジュ)」


「なんで北中に居んの?」


「親が家建てて、学区がたまたまココだった」


「ふうん」





試合でもこいつが喜んだりハシャイでる姿は見た事がなかったが、改めてクールな奴だなあという第一印象。

忍は県で最も速い球を投げる投手で、将来はプロ入り確実と噂される小学生だった。





「今ってマックス何キロ?」


「さあ。前に古いスピードガン使って計った時は177キロだったけど」


「いや完全に壊れてるだろ、それ」


「130は超えてる」


「‥‥マジ?」





中学の3年間は球速が最も伸びる時期。

これから同じチームのキャッチャーとして忍の球を捕球していくのかと思うと、もの凄くワクワクした。