殻に閉じこもっている私とは住む世界が違うし、関わることなんてきっとない……、あのときまではそんな風に思っていた。


だけど──。


「……ごめん、凜。私ちょっとトイレに行ってくるね」


あの日の記憶を辿ろうとしたその矢先、トントン、と軽く肩を叩かれ振り向くと、藍が唇の近くで片手を立てて申し訳なさそうにそう言った。


「あ、うん。いってらっしゃい」


私は控えめにヒラヒラと手を振ると、パタンと閉じた扉を見つめてちいさく息を吐いた。


途端にドキドキと高鳴る鼓動。


戻って来るまでの間だけとは言っても、やっぱり男の子と同じ空間にいるのは緊張が走る。


特に今、教室にいるのはふたりだけ、だし……。


「……ねぇ、田宮さん」

「!は、はいっ」


背中越しに突然かかった声に、思わずビクッと肩を揺らすと、彼は焦った様子で椅子から立ち上がった。