水戸さんのその情報は初耳だった。「そうだったんだ」と驚くと同時に、これまで見てきた彼女の振る舞いを思い出し「(だからか、)」と心の中で納得する。
「あ、そのリストバンド!まだ付けてるんすね」
「そうなの~懐かしいでしょ」
水戸さんは左手首に付けられた黒色のリストバンドを網代くんへと向ける。中央にはスポーツブランドのロゴと '' AKANE ''と名前が一緒に刺繍されている。
そのリストバンドは中学時代、バスケ部全員お揃いで作ったものらしく網代くんも同じバンドを持っているという。
「これは私にとって大切なお守りだからさ。願掛けみたいな感じで大会中はずっと付けてるんだよね」
そう言って水戸さんは大切そうにそのリストバンドを撫でた。
「試合見てたらバスケやりたくなってきません?」
「そりゃあもちろん!動きたいってうずうずしてくるよ」
「今でも現役バリバリでやれますって!もったいないっすよ~」
「んー、でもねえマネージャーもやりがいがあって楽しいの。ほら、プレーヤー側の気持ちも知ってると皆のフォローもしやすいしね」
はっきりと通る水戸さんの声が心臓を突き抜ける。
バスケどころかほとんどのスポーツが未経験。試合のルールをマネージャになってようやく理解したレベルの私は、水戸さんのように専門的な知識を持ち合わせてはいないし、皆にアドバイスできるわけでもない。
マネージャーとしてチームの役に立てているのか。水戸さんを見ていると、どうしても劣等感を抱いてしまう。