私の妄想でも、人違いでもなく、柊くんは真っ直ぐ私に向かってひらひらひら、と小さく右手を3回振った。


考えるよりも先に、身体が動く。


同じように右手を振ると、柊くんはゆっくりと顔を俯かせた。


「(友達って、すごい……)」


両サイドから肩を叩かれている姿を見つめながら、手を振り合えるこの関係の凄さを噛み締めるように、振っていた右手を握りしめた。



☽༓・*˚⁺‧


「世那、今がチャンスじゃない?」

「チャンス?」

「黒津が消えた。ひなちゃんは1人。しかもこっちを見てる。話しかけるチャンスでしょ」

「この位置からはどうやったって無理だろ」

「大声で叫べばいける」

「ばかか。はずい。無理」


眉を寄せ、うすら笑みを浮かべる波琉の顔を見る。


「じゃあさ、手振ってみればいいんじゃね?」


横から佐野も会話に混ざってくる。


「……手、」

「友達になったんだったら普通だろ、手振るくらい。な?」

「俺もそう思うけど、まあ、世那が無理って言うならしょうがないよ。俺らはもう出しゃばらないからさ」

「あーそうだったな。友達のひなちゃんに挨拶しないんだったら時間もないしもう行こうぜ」


小芝居がかった言い回しをする2人に若干イラつきながら、もう1度顔を上げた。


羽森さんはまだ俺らの方へと顔を向けている。


いきなり馴れ馴れしくないだろうか。そう思いつつ2人の言葉にまんまと乗せられて、控えめに右手を振ってみた。


俺が手を振ってすぐ、手を振り返してくれた羽森さんの姿に胸の真ん中が苦しくなる。ゆっくり顔を俯かせて、乱れる鼓動を落ち着かせる。


1ヶ月ぶりの羽森さんは想像以上の破壊力だった。