「ほらあれ」と光希が真っ直ぐ指を指すので、嫌でもそちらを向かなければいけなくなる。


ゆっくりと視線を向けると、先ほどでまで窓の外を見ていた彼――柊くんは少し首を下に傾けながら静かに目を閉じていた。


「柊っていっつもこの電車乗ってんの?」

「さ、さあ…?どうなんだろう」

「あいつらも朝練ってわけか」


私の下手な棒読みを気に留める様子のない光希は、目線の先にいるライバルに興味津々のようだった。


「つーかさ、立って寝てるだけなのに絵になるってなんなんだよあいつ」


目を瞑っていることをいいことに、もう1度柊くんへと目を向ける。


今日も今日とて、エナメルバッグを地面に置き、両腕を組みながら俯いている姿は光希の言う通りそれだけで絵になっている。


色素の薄い髪は地毛だと聞いたことがある。学校には地毛申請も出していると。


窓からの日差しでより茶色く艶めいているサラサラのマッシュヘアは、手触りが良さそうだなといつも思ってしまう。


「(あ…。今日は音楽聞いてないんだ)」


いつもは耳元に付けられているヘッドホンが、今日は首に掛けられていた。その姿さえもかっこいい。


柊くんの世界にどっぷり浸かってしまっていたところ、横からの強い視線にはっとした。首を回した先にいる光希は、分かりやすく目を細めている。


「ひなってさ、あーゆータイプ好きだろ」

「えっ……な、」

「前にかっこいいって言ってたアイドルとあいつ、雰囲気が似てる」


一体誰のことだろう?きっと何の気なしに発したであろう過去の言葉からはそのアイドルが導き出せない。


「そんなことないよ」

「へえー」

「本当に。好きじゃないよ」


へらり、曖昧に笑って見せる。


今日も今日とて、私は心の蓋を強く閉め直すのだ。