「体調は?大丈夫なのか?とりあえずこれで首元冷やしとけ」

「あっ、だいじ」

「お茶もあるぞ。飲むか?」


今日も過保護を発揮させる光希は、慌ただしい動作でエナメルバッグから凍ったスポーツドリンクと水筒を差し出す。


「あ、ありがとう光希。大丈夫だから、ちょっと落ち着いて…」


電車の走る音しか聞こえない静かな車内。


寝ている人も多い中、光希の声は少しばかり大きい。人差し指を自分の口元へと寄せて、しーっと光希へ合図する。


「ひなは無理しがちだから心配なんだよ」

「ありがとうね。でも本当に大丈夫だから」

「お茶だけはとりあえず飲め。水分補給は大事だから」

「う、うん」

「学校でも体調悪くなったらすぐ保健室行くんだぞ?」


声のトーンを落としての会話が続く。


光希の言い方だとまるで、私が病弱で体調を崩しやすい子のようだけど、私は至って健康体だ。


言う通りに氷たっぷりのひんやりとした麦茶を一口飲むと、光希の過保護はようやくおさまった。



「あ」

スポーツドリンクと水筒をバッグへと仕舞い直し、顔を上げた光希は小さく口を開けた。


「どうしたの?」

「あれ、柊じゃん」

「……」

「白石東の柊」