彼の目はしっかりと私を捕らえていた。


「( ……め、目が……合ってる…… )」


若干のパニックにより、今起きている状況を脳が理解するまで少しばかり時間がかかった。


ガタンガタン、と電車の走る音がどんどん遠のいていく。


完全に意識を吸い込まれた私は動くことができず、視線が合わさったまま時は過ぎる。


――と、アンニュイさを感じる彼の瞳がゆっくりと横へ移動した。


私の右肩にもたれかかっている光希を一瞥した彼は、視線を数秒置いたのち、ふい、と顔ごと窓の外へと逸らした。


パチン。


夢の世界から目が覚める。


電車の音が再びクリアに聞こえ始めた。


肩の力がずるずると抜けていく。そのせいで、気持ちよさそうに寝ていた光希は頭を起こすと、目をこすりながら私を見上げた。


「わりぃ、重かった?」

「ううん大丈夫。ごめんね、起こしちゃって」

「ひな、なんか顔赤くね?」

「えっ……」


私の顔を覗き込む光希は「まさか熱ある?大丈夫か?」と心配そうに眉を寄せる。


顔全体がじんわりと熱い。原因は1つしかなかった。


それを悟られないように「ちょっと暑くて…」と両手でパタパタと顔を仰いだ。