浅く腰かけ直した光希は「おやすみ」と言いながら私の肩元へと頭を預ける。私も特に気にすることなく光希の頭を受け入れる。


右肩に重みを感じながら、走っても走っても広がり続ける田んぼを窓から眺めた。


いつもはうとうとと睡魔に襲われかけているこの時間。今日は意識がはっきりしているからか、次の駅までの時間がいつも以上に長く感じる。


「次は――、次は――」


待ち侘びたアナウンスに小さく心を躍らせる。


今日は前髪を直すことはできないし、姿勢を正すこともできない。


それが少し不安になったけれど、その行動に何の意味もないことくらい分かっている。彼が私を視界に入れることなんてないんだから。ただの気休めにしか過ぎないんだから。


手持ち無沙汰になった両手を、バッグにぶら下がるうさぎのマスコットへと伸ばす。


電車が止まり、扉が開く。 


数人が乗り込む足音が聞こえてくる。


視界の端に、白のエナメルバッグが映る。


ふう、と一呼吸置いて、彼の定位置へと僅かに顔を向ける。





えっ……


目の前の光景が信じられなくて、反射的に思いっきり顔を下へと逸らしてしまった。


スカートのチェック柄を一点に見つめ、心を落ち着かせようとするけれど、バクバクと音を立てる心臓は鳴り止む気配がない。


隣でゆっくりと寝息を立てている光希が恨めしく思えてくる。


もしかしたら、見間違いかもしれない。そう、そうだよ。きっと私の勘違い。


パニックになった脳内は都合のいいように記憶の改竄を試みる。


もう1度恐る恐る顔を上げ、ちらり、上目を向けた。


「っ、」


私たちの視線はもう1度重なった。