かけたい言葉は沢山あっても、溢れるのは涙だけで。やっと顔を上げてくれた菅谷くんに見せることが出来たのは、涙でぐちゃぐちゃになっている私の顔だけだった。
 私のぐちゃぐちゃの顔を見て、菅谷くんが優しく微笑む。

「なんで川崎さんが泣いてるの。俺は大丈夫だから」

 先ほどまで弱音を吐いていた菅谷くんがまた「大丈夫」と言うのだ。
 それがあまりに苦しくて、私は気づいたら菅谷くんの手を掴んでいた。

「川崎さん……?」

 驚いている菅谷くんを無視して、私は菅谷くんの右手を両手で包み込むように握る。
 涙でぐちゃぐちゃでも、この言葉だけはかけてあげたい。この言葉だけが今の私たちを救ってくれる。



「菅谷くん、大丈夫。大丈夫だよ。寂しくないから。全然寂しくない」



 私が絞り出した声に返事はなくて。
 
 菅谷くんの方に視線を向けると、菅谷くんの頬に涙が伝っていた。

 そうか。菅谷くんは今まで誰にも「寂しくない」と言葉をかけられたことがないんだ。だって菅谷くんが病気を周りに明かしていない以上、菅谷くんに「大丈夫だよ」と言ってくれる人はいないだろう。