言葉に詰まった私に美坂さんは手で水を(すく)ってから、その水を「えい!」と少しだけ弾いた。

「わ!」
「川?さんも入ろ!ほら、ちょっとだけでいいから!」

 美坂さんに引っ張られるまま私は靴を脱いで、海にそっと足をつけた。

「ね!今日暑いから気持ちいいでしょ?」

 嬉しそうにそう聞く美坂さんに私は小さく頷いた。
 隣に美坂さんがいて、笑っていてくれて、近くには楽しそうな菅谷くんと草野くんがいる。そんな光景が眩しくて、眩しいのにその中に自分もいると思うと不思議な感じがした。
 それでも、きっとそれを心のどこかで喜んでしまっていたんだと思う。うん、きっと私は舞い上がってしまっていた。
 だから、きっと気づかなかったんだ。

 菅谷くんが無理をして笑っていることに。

 この日の夜、私は初めて菅谷くんの本当の苦しみを知ることになる。