名前を呼ばれて、振り返ると菅谷くんが立っている。私は慌ててぬいぐるみをポケットに押し込んだ。

「大丈夫?俺が切る分の玉ねぎを切り終わったから手伝いに来たんだけど……」
「そうなんだ……ありがと!」

 無理やり明るい声を出して、自分を鼓舞(こぶ)する。菅谷くんは私の不調には気づかず、そのまま私の隣までやってくる。

「おお、水めっちゃ入ってる!少し流しても大丈夫?」
「うん、ごめん。ぼーっとしてたら入れすぎちゃって」
「川崎さんでも抜けてるところあるんだな。安心した。草野なんかまだ玉ねぎ切り終わってなくてさー」

 菅谷くんの話を貼り付けたような笑顔で頷きながら聞く。ダメ。もっと上手く笑わないと。菅谷くんに気付かれてしまう。
 じんわりと額に(にじ)み始めた汗を拭うことすらしないまま、私は笑顔で菅谷くんに聞き返す。

「菅谷くんは料理はよくするの?」
「あんまりしないけど、たまに休みの日は……」

 その時、菅谷くんの言葉が急に止まった。

「川崎さん、体調悪いでしょ?」

 突然の問いに私は返事をすることが出来ない。