美坂さんは自分の席に戻ろうとして何かを思い出したようにこちらを振り返った。

「あ!川崎さん!甘いもの食べれる?特にクッキー!」
「……食べれる……」
「良かった!とってもおすすめのクッキーがあって、明日持ってくね!」

 美坂さんはそう言って、今度はもう振り返らずに席に戻っていく。きっと本当に美坂さんは優しい人で。私はそんな優しい人にも上手く言葉を返せない。
 それなのに、先ほどまでクラスがオリエンテーションの話題で盛り上がっているのを聞いているだけだった自分が、オリエンテーションの会話に参加できていることを喜んでしまう。そして、慌てて自分の病気は周りの人を不幸にすることを思い出し、喜びに蓋をするのだ。
 ドクドクと速なる心臓が緊張しているのか不安なのかは分からないまま、もう明日はすぐ目の前まで迫っていた。