「じゃあ、菅谷で決定だな」

 その菅谷くんの笑い方が入学式の時の笑い方とは違うはずなのに、どこか無理しているように感じて私はつい声を出してしまった。

「あ……」
「川崎さん、どうかした?」
「いや、えっと……」

 言葉に詰まったまま菅谷くんに視線を向けると、菅谷くんは不思議そうに私の顔を見ている。

「ごめん、なんでもない。当日の日程確認しよっか」

 きっと今の私の笑い方は、菅谷くんが誤魔化す時と同じ笑い方だったと思う。
 それからすぐに日程確認が終わって、それぞれの机に戻って自習を始める。私は数学の教科書とノートを開いているのに、教科書の文字を追うフリをして先ほどの自分の行動を振り返った。

 一体、私は何がしたいんだろう。

 菅谷くんを助けることが出来るとおこがましくも思っているのだろうか。弱くて、寂しがり屋で、何も出来ないくせをして。
 そうやって弱った心には、すぐに症状が顔を出した。私は別の教科書を探すふりをして、スクールバッグの中のぬいぐるみと手を繋ぐ。
 ああ、本当に私って哀れで馬鹿みたいだ。