草野くんが私に走って近寄ってきてくれる。菅谷くんも草野くんに少し遅れて、私の前まで歩いてきた。必死に症状を誤魔化そうと思っていたのに、何故かいつの間にか症状は(おさ)まり始めていた。

「なんで……?」
「川崎さん?」
「あ、ごめん。なんでもない!草野くんたちは休憩中?」
「おう!まじで休憩なかったら倒れる!暑すぎて!」

 草野くんはこんなに暑い中でもいつも通り元気だった。その時、別のサッカー部員に「草野ー!」と呼ばれて、草野くんは戻っていく。菅谷くんは私に近づいて、小声で私に話しかけた。

「川崎さん、大丈夫?もしかして症状出てた?」
「あ……いや、出てたんだけど、なんか(おさ)まったみたい。なんでだろ……」
「いつものぬいぐるみ握ったの?」
「ううん、今日はバッグから持ってこないまま部室を出ちゃって……」

 私はそう言うと、菅谷くんが笑った。

「じゃあ、成長してるじゃん」
「え……?」
「きっとちょっとは良くなってきてるんだよ」
「……なんか多分、草野くんと菅谷くんの顔を見たからかもしれない。久しぶりだったから、なんか安心したのかも」