○街中 警察署バック


夜子「……えっ!?」

口をおさえる夜子。
つい上から下へ凝視する夜子に、優麗は分かりやすく目をそらす。

夜子「えー……っと」

ハーフアップに、ごついピアスへと目がいく夜子。

ずっとどっか見てる優麗。

【い、いつもと――】

夜子(ぜ、全然違くない!?)

【むしろ真逆……】

しびれを切らした首に手を当てながら優麗は、夜子を見る。
夜子の背筋が伸びる。

優麗「あー……その――」

夜子「だ、大丈夫!カッコいいよ!」

夜子は汗まじりにグッと親指をたてる。

優麗「え?」

呆気にとられる優麗に、夜子は小さく手を振り早口で別れを告げる。

夜子「うん、ではまた明日ねっ。じゃあお先にぃ!」

半ば逃げるように帰っていった夜子を、優麗は見つめた。



○夜子 家(夜)

ソファに仰向けになる夜子。

【学校の先崎くんと】

【さっきの先崎くん】

夜子「……信じられないくらい、別人」

目を瞑って優麗の姿を反芻する夜子。

夜子「でも警察署……って」

【何があったんだろ――】



○次の日 学校教室(朝)

教室に入る前に深呼吸する。

夜子(気まずい……でも知らん顔すれば大丈夫だよね)

いつも通りに開いていたドアから教室へ。
来たばかりで鞄を机に置き、笑顔で手を上げるかんな。

かんな「ヤコちゃんおはよー!」

夜子「おはよ、かんちゃ……っ!」

かんなに挨拶を返した途中、すでに座って頬杖の優麗と目があった夜子は固まるもすぐそらす。

かんな「どったの?」

不思議そうなかんな。
夜子は首を振って席につく。

夜子「ううん!何でもないっ」

鞄を机横にかけて、夜子は教室を出ていく。
夜子の後ろ姿を横目でみている優麗。



○屋上前階段


夜子は階段に座って項垂れる。

夜子「あー……明らかに不自然だったじゃんわたし」
(目合ってすぐそらすとか、嫌みくさいことしちゃったしさぁ……)

優麗「ちょっといい?」

夜子「うわっ!?」

声に驚き夜子の肩がはねる。
少し下に優麗がいる。

夜子「先崎くん……ど、どうぞ」

優麗は夜子の一段下に座る。背を向けたまま優麗は話す。

優麗「なんとなく変に誤解されてたらイヤだな、と思って」

夜子「誤解?」

夜子は優麗の背に問いかけ、優麗は頷く。

優麗「学校の俺じゃないバージョンの俺を見て、しかも出てきたの警察署だったじゃん」

夜子「う、うん」

夜子は膝を抱える。

優麗「俺が何かしたかも、って思ったでしょ?」

肩越しに夜子をみる優麗。

夜子「ちょ、ちょっと思ったり……しなくはなかった」

夜子は指でちょっと、を表した。

また背中をむける優麗。

優麗「ま、そうだよね」

少しの沈黙が流れる。

優麗「……実際は、何日か前に財布拾って届けたたんだけど、見つかったからーってお礼されてたって感じです。まぁ信じらんないかもだけど」

優麗が立ち上がって階段をおりようとする。
夜子も立ち上がった。

夜子「し……信じるよ。確かに、先崎くんのあのギャップには驚いたけど」

優麗は驚いた表情から優しい顔にかわる。

優麗「……そっか」



○教室

優麗と夜子が教室に入る。

理「あ!先ちゃん!」(暗めグレー髪くせっ毛)

優麗「げ」

ぱぁっと優麗をみて理は目を輝かせる。
優麗は嫌そう。

るんるんで二人に歩み寄る理。
同時に優麗は夜子の後ろへ隠れる。

理「先ちゃんおはよぉ、ヤコちゃんもおはよぉ!藤田理だよ、よろしくぅ」

にこにこの理に優麗はジト目。

夜子「お、おはよ」
(ヤコ呼び……というか)

優麗「せんちゃん呼びやめて」

理「かわいーじゃん!やめません。あ、僕がいなくて寂しかったんじゃない!?」

ずいっと近付く理。優麗は夜子の肩を掴みガードがわりにする。
板挟みの夜子。

優麗「全然」

理「またまたぁ」

夜子「な、仲良いんだね?」

理の顔がどアップになりそうな距離に夜子は口を開く。
理は夜子ににこにこし、優麗を引っ張った。
嫌そうな優麗に肩を組む理。

理「とっても仲良し」

優麗「普通」

理「親友!」

優麗「違う」

なんでぇ、と優麗にしがみつく理。
夜子は二人のやりとりをみて小さく笑う。

【ある意味面白いコンビかも】


理は優麗と夜子に背をむける。

理「親睦会に行けなかったから遅れを取り戻そうと、馴染むのに必死なのにっ」

ぐすん、わざとらしくハンカチを手にして入る理。

夜子「そう言えば、何でお休みだったのか聞いても?」

優麗「盲腸だよ」

優麗は夜子にむいて答える。

理「そう盲腸だったのさー……だからお友達できるか心配で心配でっ」

優麗「お前なら秒で馴染めるでしょ」

優麗はジト目。

夜子(確かに)

苦笑いの夜子。

理は嬉しそうに振り向く。

理「やっぱり!?僕もそう思う」

優麗「はいはい」

優麗が理をスルーしたと同時にチャイムが鳴った。



○教室 昼休み


かんなと夜子は机を合わせて向かい合う形でお弁当をひろげている。かんなのお弁当は夜子より大きめ。

かんな「唐揚げおいひいっ」

美味しいそうに食べるかんなを見て夜子は微笑む。
同じように教室内でお弁当をひろげている面々。

かんなと話しながらも、女子生徒たちの会話が夜子の耳に入ってくる。

『うちのクラス割りと高めじゃない?』

『何が?』

『顔面偏差値っ!サッカー部にー野球部のイケメンもいるしさ』

『わかる!あとー……あ、優麗くんもじゃない?』

ぴくり、反応しつつ箸を動かしながら耳をすませている夜子。

『それもわかるわ。ただ全然喋らないのが勿体ないんだよねぇ』

『喋らないってか、いつもマスクじゃん?素顔丸々見たことないんだけど』

『あーそうかも、昼休みどっか行っちゃうしね』


【確かに――】

女子生徒たちの会話に共感する夜子。箸が止まりフリーズ状態。

夜子(昼休みに見かけたことないかも)

夜子の視界に手をかざすかんな。

かんな「――い、おーい?」

夜子「っ!?ゴメンっ」

ハッとする夜子。

かんなはお弁当を片付けはじめる。

かんな「ヤコちゃん、今日スローリーだねぇ。私の方いっぱいあるのに食べ終わっちゃった」

夜子「ごめん、すぐ食べる」

かんな「大丈夫大丈夫。早食いはなんとやらってね。しまったら、だぶりゅーしぃーに行ってきますので待ってて」

席をたつかんな。

夜子「うん、わかった」
(普通にトイレって言わないあたり、かんちゃんらしいな)

残っているおかずを食べ進める。

夜子(先崎くんって、お昼どこ行ってるんだろ)
「あ、藤田くんならわかるかも……」

ぽつり呟いた夜子。

理「何かご用かな?」

夜子「っ!?」

目の前に座っていた理に驚き、ゴンッ!と夜子は反動で足をぶつける。

理「大丈夫?」

夜子「いーたぁ……って急にびっくりした」

理「いやぁ、呼ばれた気がして来ちゃった」

にこにこ。

夜子「来ちゃったって……」
(でも、これは聞ける?チャンスかも)

あの――と夜子が切り出した時、理が口を開いた。

理「先ちゃんの昼休みの謎が知りたいのかぁ」

夜子「え」

にこにこから、ニヤニヤに変わる理。


【何も言ってないのに、何で?】