「人が見れば、ただの風景写真─…でも俺にとっては最後の家族旅行の思い出。」


「……え…?」


「病気だった父が、死ぬ前にどうしても見たい景色があるって言って…最後に家族で行った旅行先がそこだった。」


「そ…そうなんだ」


「でも実際にその景色を見た父は…死ぬ前に見たい景色じゃなくて、”ここから始まる景色”だって言ってた。見る人によって受け取り方は違うだろうけど…父にはその風景が希望のように思えたんだろうね。」



なぜ突然、私に過去の話を語ってくれるのかは不明だが…知らなかった由吏のことが知れて嬉しい半面、ちょっとだけ悲しい気持ちにもなる。



「その時…シャッターを切ったときに撮れた写真がこれ。見る人が見れば、俺の複雑な心情が浮かび上がってくるんだろうな。観光スポットで撮った一枚で賞を取れるなんて思わなかったよ」



額に入れて、壁に飾られていたその写真をそっと手に取った由吏は…ここに来てから初めて振り返り私と視線を合わせた。



「……だから、お前がこの写真を俺以上に大切に扱ってくれてたことを知った時…凄く驚いた。」


「……わ、わたし?!」


「埃がついたりしないように、入部してから毎日手入れしてくれてただろ?」



実は…由吏や早乙女氏が来るよりも早く部室に入るようにしていた私は、毎日この写真を手に取って指紋や埃が一つもないように…手入れをしていた。


上手くいかないことや、ヤキモチを妬いてしまうような日があっても…この写真と向き合っている時間だけは心が澄んでいくようで…とても充実した時間だったんだ。


それがまさかっ…バレていたなんて。