「山木さん、大通りに面したお花屋さんって行ったことありますか?」
「ああ、イケメンがいるお店?」

同じシフトで働くバイト先の先輩、山木美鈴(やまきみすず)さんは私の母親くらいの年代だろうか。
歳はまだ訊いたことがないけれど、優しくて面倒見もよく仕事も早いし接客上手である。
仕事を終えたあと着替えながらお花屋さんについてそれとなくご近所でもある山木さんに尋ねると、花よりイケメンというワードが先に返ってきてやっぱり目立って有名なのかなと思った。

「素敵ですよね。私、外からしか見たことないんですけど」
「兄弟で経営してるって聞いたことがあるけど、花純ちゃんどっちかに惚れちゃった?」

あまりにストレートな問いかけに、閉じたロッカーの扉に頭を打ち付けそうになる。
しかし確かに憧れではあって、惚れるまでには未到達ながら全面的に否定が出来ない。

「きれいなお花はそろってるし、接客も手際もいい上にイケメンだし、いいお店だと思うけど。一度行ってみれば?」

惚れたかどうかを返せずにいる私の背中を押すように、山木さんは笑って言った。
確かに外から見ているばかりでは、一生自分にお花も買ってあげられない。