「……私も、会いたいときに会えるくらい、千尋くんと……仲良くなりたいです」

答えた瞬間、ほっとしたように笑った千尋くんはへなへなとその場にしゃがみこんで「良かった……」と小さくこぼした。
そこから気を取り直すようにスッと立ち上がると、両手で持っていた花束を改めて笑顔で私に差し出す。

「花瓶……買わなきゃ……」
「一緒に買いに行こう?」
「え?」
「デートしてください」
「……はい」

私の呟きにすぐさま約束をつけ加えながら千尋くんが微笑むから、私もつられて微笑んだ。
かわいいピンク色の花束を幸せな気持ちで見つめていると、千尋くんが音も立てずにキスをする。
何が起こったのかと、一瞬の出来事にドキドキと胸がうるさくなった。

「お客様を好きになったらどうすればいいかって兄貴に相談したら、それは出来るだけ早く自分から伝えろって言われて」
「千早くんに……?」
「花純ちゃんが差し入れ持ってきてくれた日に、気持ち伝えないならお前は辞めろよとまで言われて」
「強い……」
「でも……キスまでしたのは怒られるかも」

いたずらっ子が失敗したみたいに笑った千尋くんは少し幼く見えてかわいかった。
「秘密にしてください」と、口元に人差し指を立てるから笑って頷くと「ありがとう」と頭を撫でられる。
抱えた花束がふわりと香り、鼻と心をくすぐって、私に新しい恋のはじまりを知らせてくれているようだった。