差し入れは喜んでもらえたけれど、千尋くんはいなかったと山木さんに報告すると、まるで自分のことのようにがっかりしていた。
もしかすると私以上に落胆していたかもしれない。

「今日も何か余らないかしらね」

そんな山木さんの冗談に笑っていると、お店のドアが静かに開いた。

「いらっしゃいませ!」

私と山木さんが反射でそう声をかけた先、ドアを開けた主はにこりと微笑む。

千尋くんだった。

ポカンとする私のそばで、山木さんは全く動じることなくいつも通りといった様子で雑用を見つけるのが上手い。
そのプロフェッショナルな精神を少し分けて欲しい。
助けて!と山木さんにすがりつきたいくらい緊張していると、千尋くんは「豆大福三つください」と注文を唱えた。

「は、はい!かしこまりました!」
「差し入れありがとうございました。美味しかったです」
「よ、良かったです……」

しどろもどろ、プルプルと震えながらなんとか豆大福を三つ包んで会計を終えると「今日の帰りも、寄ってもらえると嬉しいです」と千尋くんが小さな声で私に囁く。
小さく一度だけ頷けば「待ってます」と笑みを浮かべて、千尋くんが静かに帰って行った。