風化していたはずの嫌なできごとが、昨日のことのように鮮やかに蘇る。胸を締めつける苦しい思いが心の中に広がるのを感じながら、私はまた走り出した。

 どうやら自分で考えていた以上に、彼とのできごとがトラウマになっているらしい。今さらながらに気がついた。

 かつての自分は、人気のある柚木くんに嫌われたことで上級生に目をつけられていた。そのせいかいつも怯えや引け目を感じていたように思う。
 だけど、同じ学年の子たちはそんなことを気にせず、いつも私に優しくしてくれた。だからここに戻れると決まった時も嬉しかった。


 また皆に会えると思って……
 でもここに来るということは、また柚木くんとも関わるということだ。分かっているようで分かっていなかった。年齢も学年も離れているから、どこかでもう終わったと思っていた。

 でも私ももう高校一年生。
 以前より強くなったはずだ。前みたいに嫌がらせをされたからって泣くような子供じゃない。だから、きっと大丈夫。

 自宅に着いたころ、太陽の光がのどかに照っていた。春の陽射しが妙に眩しい。