おそるおそる振り返ると、そこには目鼻立ちの整った男がとても驚いた表情で立っていた。年は十七、八だろうか。幼さが消え、キリリとした眉にスッと通った鼻筋。精悍な顔つきになった。
 六年経っているので分からないと高を括っていたのに、その考えが一瞬でどこかに飛んでいく。

 「誰?」と訊ねなくても分かってしまった。
 私を虐めていた柚木和真(かずま)だ。

 頬を撫でる春の風が、ぞくりと私の体を震わせた。口の中に苦い味が広がっていく。


「やっぱりそうだ。三葉結菜だろう?」

 私が何も答えないことに焦れたのか、柚木くんがもう一度名前を呼んだ。自分の前に立ちはだかる――かつてのいじめっ子を前に、なんと答えたらいいか分からず視線を彷徨わせる。

「……その様子じゃ覚えていないんだな」

 彼はひどく残念そうにこちらを見つめた。けれど、すぐに気を取り直したのか笑顔を向けてくる。


「俺、柚木和真。駅前の柚木文具の息子なんだけど、思い出せそうにない?」
「覚えていますけど……」

 ずいっと距離を詰めてくる柚木くんに、思わず半歩さがる。彼は私をジッと見つめて、目を離さない。耐えきれずに認めると、彼が分かりやすく安堵の息をついた。


「ああ、良かった」