まさか柚木くんと偶然会ったりしないよね……

 彼はまだ兎谷学園に通っているのだろうか。
 会ったところで、もう何年も経っているのでお互い分からないはずだ。それに相手も今となっては小学生ではなく高校生。しかも三年生なのだから、以前のように絡んでくることはない……よね?

 不安だが大丈夫だと言い聞かせて駅から十分ほど歩くと、四年生まで通った兎谷学園初等部の校舎が見えてくる。春休み中なので校舎内はしんと静まり返っているが、当時を思い出させてとても眩しく感じた。

 こっち側はあまり変わってないな……

 学校の前には小さな公園があって公園裏には神社がある。近所の子供たちは学校帰りにそこで遊ぶのだ。
 だが、朝が早いせいか春休み中だというのに、子供たちの姿はまだ見られなかった。


「もう六年くらい経つのか」

 独り言ちて公園の裏手にまわり、神社の階段をのぼると、大きな御神木が朝露でキラキラと煌めいている。心地よい風の音と共に、懐かしいさざめきが蘇った。

 私は拝殿に近寄り賽銭箱にお金を入れて、姿勢を正し二回深くお辞儀をした。そして胸の前で二回手を叩き、『今度はよい思い出がたくさん出来ますように』とお祈りする。

 祈り終えニコリと微笑んでからもう一度深くお辞儀をしたとき、背後から「三葉結菜(みつばゆいな)?」と呼ぶ声が聞こえた。