「先月にさぁ。
『6月はイベントないな』、とか言ってたよね……」


「ね」


「それで……外出るのは、今日だけだぁって……思って……」


「言うてましたねー。そんなことも」


「だから……今月は久々、社外で職場の人に会うことないなぁ、とも………思ってたのに……のに……」


「………………」


「なんでいるの!?神崎くん」


「いやー、こっちが聞きたいっすよ。
"俺のイトコ"の、瞬兄の結婚式やったんですよ」


「こっちだって!
"私の親戚"の、麗子ちゃんの結婚式だったの!」


「てか、親戚って?」


「私のおじいちゃんの弟の娘さん……が、麗子ちゃん」


「すごない?それ」


「すごいよね。15歳差だって。
おじいちゃんと、弟さん」


「や、そこやなくて。
俺らがここで、一緒になったことですよ」


「いやいや。すごいのは麗子ちゃんと旦那さんでしょ。
バーテンダーとお客さんで、結婚までしちゃうんだもん」


「瞬兄、めっちゃ幸せそうでしたねぇ」


「うんうん。旦那さんが一番泣いてたねぇ。
あんなに愛されて……いいなぁ麗子ちゃん。憧れる」


「え。外出たないとか言うてる割に、そういうのは求めるんや」


「いいじゃん。ほっといてよ」


「いやいや。重要な問題っすよ」


「何?自宅警備員は、恋に憧れちゃいけないとでも?」


「ちゃいますよ。そやなくて。
んー……じゃあとりあえず。
先輩、好みのタイプは?」


「タイプ…………」


「年下でー、高身長でー、仕事できてー、みたいな?」


「えー。年齢も身長も仕事の出来も、どうでもいいよ」


「……アイデンティティまるなしやわ」


「そだなぁ……何か[好きなものに夢中になれる人]がいいかな?」


「あ、まだ救われた。俺のアイデンティティ」


「さっきから何なの?」


「いや、こっちの話。
てか、付き合うならデート行かなあかんやん」


「そりゃ行くでしょ」


「え。インドア名誉会長やのに?」


「勝手に昇格させないで。
好きな人とのお出かけなら別でしょ」


「…………え、先輩。
そもそも、付き合ったりデートしたことあるんすか?」


「………………」


「………………」


「…………あるよ?」


「怪しすぎる間。絶対ウソやん」


「や、やだなぁ。私、今年で24だよ?
そりゃ彼氏の1人や……1人……とか……」


「…………1人なんや。元カレ」


「………………」


「え、待って。もちろん、"元"ですよね?」


「うるさいなぁ」


「未練は?ないですよね?」


「………………」


「え????なにその無言」


「もう!しつこい!内緒!!!」


「まってほんまアカンってそれ。
先輩のせいで、明後日からの出勤できんようなりますよ」


「なんで私のせいなの!?
ってか、こっちばっかりズルいよ。
そういう神崎くんはどうなの?」


「どうって?」


「元……いや、今付き合ってる人いないの?」


「おらんっすよ」


「じゃあ、これから付き合いたい人……って、それもいないか。
神崎くんがそう思ったら、すく付き合えてそうだもんね」


「……なんそれ。どういうイメージ」


「一応、褒めてるつもり?」


「……………………おるよ」


「え、ウソ。付き合いたい人?」


「付き合いたいというか……
なんかもう、めちゃくちゃにしたい人」


「うわ。なんかいま、ゾッとした」


「へぇ。先輩の危機管理能力、正常に作動してるんですね」


「いや、あんなの誰でも怖いって言うよ。
そこはかとなく歪んでそうだもん」


「失礼な」


「本人に言わないの?その気持ち。
まあ、もっと言葉を選ぶべきとは思うけど」


「……そのうちね」






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『ギムレット』
https://www.no-ichigo.jp/book/n1733584


()と麗子さんが結婚するまでの話、こっから見れますよ!」


「バーテンダーとその客の、よくある男女の話よ」


「えぇ……情緒も何もないやん……大事な思い出やのに」


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