「あなたは何も聞いてないみたいだけど、本当は私とこのマンションで同棲するはずだったのよ!」
「え?」
「あなたが可哀想だからって、大崎さんいえ凛太郎さんが」
「そんな……」

 彼女の言葉は真実なのだろうか? ただわかることは、凛太郎さんと一緒の職場で働いていることは間違いない。

 現にこのマンションを知っているということが、ただの同僚とは違うということだ。

「優しい凛太郎さんのことだから、自分から出て行けって言えないのよ。火事に遭って大変なのはわかるけど、落ち着いたなら出て行くべきじゃないの?」

 火事のことも知っていると言うことは、凛太郎さんから聞いたとしか思えない。凛太郎さんの優しさに甘えていた私には返す言葉もなかった。

「私が教えてあげたことは言わないでよね!」

 そんな言葉を残して去って行く女性の後ろ姿をただ呆然と見送る。背が高くて、グレーの服を着ている時より迫力があった。彼女にしてみれば、私の存在は迷惑なのだろう。