昨日は、地下の駐車場からエレベーターに乗ったけれど、人の出入りは1階のエントランスのはずだ。

 ドキドキとしながらエレベーターを降りると、テレビで見るようなコンシェルジュはいないけれど、管理人室がある。前を通る時に管理人さんと思われる人と、目が合ったので頭を下げた。

 オートロックのない昔ながらの団地に住んでいた私には、未知の世界でおどおどしてしまう。マンションの外に出た瞬間、開放感で大きな溜息が出た。

 役所は凛太郎さんの働く消防署の近くなので、マンションから近い。

 消防署の前を通る時に、姿がないか視線を向けた。

「大崎さん!」

 グレーの服を着たスラッとした女性が、消防署の中に向かって名前を呼んでいる。『大崎さん……』とは凛太郎さんのことだろう。

 思わず足を止めて、建物の陰に隠れてしまった。私が隠れる必要もないのだけど、無意識に身体が動いたのだ。

 女性が何か言っているけど、それ以上は聞こえないし、凛太郎さんの姿も見えない。