「ん? 俺の顔になんかついてるか?」
「え?」
「視線を感じたから」
「すみません」
「別に謝ってほしいんじゃない。どうした?」
「すれ違う女性がみんな凛太郎さんを見てるなと思って」
「はあ? それを言うなら男共がひまりを厭らしい目で見てるのが気に食わない」
「へ? 何を言ってるんですか?」

 男性が私を見てる? いつ? どこで? 凛太郎さんの言っている言葉の意味がわからない。視線を感じたことなんて一度もないのだ。

「やっぱり気づいてないか……」

 ボソッと呟いて一人納得しているけれど、私には疑問しかない。

 車に戻ると助手席のドアを開けてくれる。当たり前のようにエスコートしてくれるけれど、これが普通なのだろうか。男性とお付き合いをしたことのない私にはわからない。今度、美里先生にでもこっそり聞いてみようと思った。

 静かに走り出した車は、確実に幼稚園の方向へと向かっている。今までみたいに、バスに乗って山手から下りてくる必要がないのだ。