「ここは……」

 目を開けるとぼやけた視界に白い天井が見えた。薬品の臭いや機械の音が、ここが病院であることを教えてくれる。

「あっ、目覚めましたか?」

 通りかかった看護師さんが、目を開けている私に気がついた。

「あの、どうして?」
「憶えてないですか? 火事の現場から救急搬送されたんです」
「あっ……」
「一酸化炭素中毒で運ばれて来たんですが、低濃度だったので後遺症は残らないと思います。ただ、疲労が溜まっていたのか、丸一日眠っていましたよ」
「ええっ!」
「坪井さんが眠っている間に、職場の方が心配して来られてましたよ」

 私には、緊急時に連絡が行くような家族や親戚はいない。父親とは連絡を一切取っていないので、今何をしているのかも知らないのだ。

 警察が身元を確認するために、幼稚園へ連絡を入れたのだろう。自分の身体よりも、先生や園児達に心配を掛けたことが気掛かりだ。

 火災のことを思い出すと、スマホや貴重品、自宅にあった物は全滅だと予想できる。