もう一つの扉を思いっ切り引いた。

――ガチャ

 鍵が開いている。ということは、すでに逃げたあとかもしれないと思いながらも室内を進む。

「おい! 誰かいるか!」
「は、はい……」

 返事はないと思っていたが、微かに女性の声が聞こえた。急いで声の主を見つけて抱き上げる。小柄で軽い女性の顔を覗き込んだ。

「おい! って、君は!」
「え……」

 声に反応して薄っすらと目を開くも、俺のことは気づいていないだろう。今はなによりも彼女の救出が最優先だ。

「大丈夫か?」
「はい……」

 微かに聞こえた返事のあとに、気を失ったのか彼女の身体が脱力した。急いで逃げなければ……

 一刻も早く病院へ搬送して治療を受けなければ、一酸化炭素中毒で重症になってしまう。

 開け放った玄関扉からは煙が濃くなっていた。ベランダへ出ると、はしご車が準備されている。

「要救助者! 要救助者!」
「了解!」

 梯子がこちらへ向かってやって来る。彼女を抱いたまま五階のベランダからワゴンに乗り込んだ。