「ご丁寧にありがとうございます。上司にも伝えておきます」
「よろしくお願いいたします。では」
「あのっ」
「へっ?」
「いえ、何でもありません」
「失礼いたします」

◇◇◇

 切れた電話を見つめて呆然とする。

 俺は今、彼女に何を言おうとしたんだ? 電話を切ろうとした彼女を無意識に呼び止めてしまった。

 さきほどの彼女との出会いを思い出す――

 今日は、朝から近所の幼稚園の園児が消防署の見学に来る日だった。日頃から、子供達への防災教育や地域との連携のために、消防署では見学を受け入れている。小学生相手だと防災の講義も行うが、園児だと難しい話よりも実際に消防車に乗せる方が記憶にも残るし喜んでくれるのだ。

 独身の俺は、普段子供と関わる機会がない。でも、子供は嫌いでない。いつか結婚して自分の子供を持ちたいと思っていた。

 消防士を目指していた頃から、目標はレスキュー隊になること。レスキュー隊になるまでは、恋愛はしないと決めていた。

 晴れてレスキュー隊になれた今でも、独身で彼女はいない……