音を立てないようにそっとリビングへ行き照明を点ける。リビングは、私が朝出掛けたままの状態だ。

 凛太郎さんの部屋の扉を軽くノックしても反応がない。

「失礼します……」

 小声で囁きながらベッドを確認すると、気持ち良さそうに眠っていた。昨夜はよほど疲れたに違いない。

 起こさないように部屋を出て、夕食の準備に取り掛かる。メニューは、親子丼と豚汁。手早く準備していく。

 ご飯も炊けてあとは玉子をとじて完成というタイミングで、凛太郎さんが部屋から出てきた。

「すまない。寝てしまってた」
「おはようございます。ふふっ、寝癖が」
 
 ぴょこんと立っている寝癖が珍しくて笑ってしまう。

「夕食は俺が作るつもりだったのに」
「昨夜、忙しかったんですか? お疲れのようなので」
「ああ、大きな事故があってな」
「怖いですね」

 まさか自分の父親が、私に会いに来た日に事故を起こしていたとは思いもしなかった。

 その事実を私が知ることはない――