築五十年以上の年季の入った団地――

 五階建てだがエレベーターもなければ、もちろんオートロックなんてあるはずもない。隣近所は、団地が建てられた当時から住んでいるお年寄りばかり。

 それでも私にとっては、母との思い出がたくさん詰まった大切な住処。

 私が幼い頃に両親は離婚、母は寝る間も惜しんで働き女手一つで育ててくれた。父からの養育費は一切なかったと聞いている。慎ましい生活だったけれど、貧乏だと感じたことはない。

 母がコツコツと貯めてくれたお金で、保育士になりたい私を短期大学に行かせてくれ、夢を全力で応援してくれたのだ。

 保育士の資格を取得し幼稚園に就職が決まって、これから恩返しができると思っていた矢先に、母が職場で倒れて帰らぬ人となってしまう。

 長年の無理が祟り、身体が限界に達し過労死と判断された――

 突然私は一人になってしまったのだ。

 職場の幼稚園の近くに引っ越しすることも考えたけれど、母との思い出のあるこの団地に住み続けている。