次の日の昼休みに浅沼くんに会うと、いい意味でいつも通りだった。
 昨日のことには、もう触れずにいてくれる。

「そういえば、野中さんさ。結構、音楽聞いてるよね。昼休みに俺が少し遅れるといつも音楽を聴いて待ってるし。どんな音楽を聞いてるの?」
「あ、えっと……実は、なんか流行りの音楽のプレイリストを適当に流してるだけで」
「じゃあ、音楽全般が好きな感じだ」
「いや、好きな音楽はあるんだけど……」
「……?」

 浅沼くんが不思議そうにこちらを見ている。

「……好きな音楽を学校で聴いたら、嫌いになっちゃいそうで」

 あははと、私は笑って誤魔化した。

「聴けばいいじゃん……って、言いたいけど、その気持ちちょっと分かるわ」

 と、浅沼くんも少しだけ笑った。でも、すぐに「でも、やっぱり聞いた方がいいと思う」と言い換えた。

「だってさ、野中さん。俺らは勝手に教室に居づらくなってるだけで、本当は何も悪いことしてないし」
「……」
「野中さん?」
「あ、いや本当にそうだなと思って。なんで、私たちこんなに肩身が狭いんだろうなって思ちゃった」
「あはは、確かにそうだよなぁ。俺ら、本当なんでこんな教室に居づらいんだろ。なぁ、野中さん。変なこと聞くけど、俺と話すの嫌じゃない?」
「嫌なわけない……!」

 浅沼くんの声を遮るように否定した私を見て、浅沼くんはどこか嬉しそうだった。

「……やっぱり、野中さんは優しいよ。俺にいつも勇気をくれる」

 浅沼くんに貰ってばかりは嫌だった。私も浅沼くんに少しでも「勇気」を返せていたのだろうか。

「さ、午後からも頑張るか」
「うん」

 浅沼くんの嫌味のない「頑張る」に、また私は勇気を貰うのだ。