野中(のなか)さん、クラスには馴染めたかしら?」

 四月の半ばも過ぎた頃の昼休み。初めての担任との面談。私が黙ったのを見て、担任はすぐに気まずそうに笑顔を作った。

「とにかく野中さんが無事で良かったわ。うちの生徒が信号無視の車に()かれたと聞いた時は、肝が冷えたもの……きっとクラスのみんなもまだ戸惑っているだけだと思うわ。もし良ければ、気軽に話しかけてあげて」
「……はい。ありがとうございます」

 なんとか担任との面談を乗り切って、教室に戻る。去年と同じ席に静かに座る。
 去年と同じ席。そして、同じ教室。文系のクラスは三クラスもあるのに、全く同じクラスになるなんて。三分の一の確率。仕方ないのかもしれない。

 違うのは、周りに人がいないくらいだろうか。去年の風景が頭をよぎる。

由沙(ゆさ)、課題終わってる!?」
「終わってるー!そんなこと聞くってことはそっちはやってないなー!?」
「由沙の裏切り者!写させろー!」
「帰りにカフェラテ奢りでお願いします……!あ、ついでに売店のお菓子付きで!」
「せめてカフェラテだけにして!?」

 「普通」の高校生だった。「普通」で「平凡」で、ちゃんと「笑顔」だった。

 そんな思い出を思い出したくないかのように、携帯にイヤホンを繋いで音楽を流す。休み時間が終わるまで、ずっと。
 周りの楽しそうな話し声が聞こえないように、いつもの音量より一個大きくする。そして、好きな音楽ではなく、興味のない音楽をかける。だって、こんな苦しい時間に好きな音楽をかけて嫌いになんてなりたくない。

「……かさん。野中さん……!」

 クラスメイトに呼ばれていることに気づき、慌てて顔を上げた。久しぶりに話しかけて貰えた。どんな内容でも笑顔で愛想良く答えないと……!

「あの……数学の課題を集めてこいって先生に言われてて……」
「あ、ごめん!すぐに出すね!集めてくれてありがとう!」
「あ、いえ……全然……」

 敬語で話すかタメ口で話すか悩んでいるような話し方のクラスメイト。

「全然タメ口で大丈夫だよ!」

 なんとかそう言うと、クラスメイトは気まずそうに「ありがとう……」と消え入りそうな声で言った。ノートを渡すと、すぐに私から離れていく。


 苦しいね、私。涙が出そうなくらい。大丈夫だから。泣かないで。


 そう心の中で自分で自分に話しかけてしまう。だって、もう誰も私に気軽に話しかけてくれはしない。自分で自分を慰めるくらい許してよ。
 イヤホンを耳につけて、音楽をもう一度流す。なんでかな。いつもより大きな音で流してるのに、音楽に集中出来ないの。音楽が聴こえないみたい。お願い、早く授業が始まって。例え一度聞いた授業でも、ずっとずっと休み時間よりマシなのだ。
 その時、チャイムが鳴って、教室に先生が入ってくる。慌てて開いたノートに一滴涙が落ちて、小さなシミが出来る。授業中、そのシミの場所に書いた文字が少しだけ滲んだ気がした。