夏休みも終わり2学期がスタートした。
そして、すぐに修学旅行がやってくる。
修学旅行の事前学習としての調べものも多い中、気になっていたのは結ちゃんと真緒くんだった。
夏祭りの時に告白するって言っていたけど、その後会った真緒くんは何も言っていなかった。
まあ、言える状況でも無かったけど。
一方の結ちゃんも特にLINEでの連絡もなかった。
聞いていいものなのだろうかと迷いながら恐る恐る結ちゃんに聞いてみることにした。
「ねえ、結ちゃん」
「ん?なに?」
「聞いていいのか迷ったんだけど…」
「あ、夏祭りの後のこと?」
「うん。」
「実は…告白できなかったの!」
「え!!なんで?」
「しようかなってタイミングで、真緒くんが好きな人がいるって話しになって」
「うん」
「じゃあ、私、真緒くんに好きになってもらえるようにします!って伝えた(笑)」
「結ちゃん、かっこよすぎるよ」
まさかの失敗でも成功でもない状態で驚いたけど、結ちゃんも傷ついていないのならと安心はした。
それと同時に、真緒くんの好きな人も気になってしまった。
そして数週経ち、修学旅行の準備もある中だったが、最近は9月にも台風が来ることが多く、最近も雨の日が多く続いていた。
真緒くんは、症状が強く出てしまうのかしばらく欠席が続いている。
「真緒くん大丈夫かな?」
「心配だね。」
「LINEは返ってきてるから大丈夫だとは思うけど…お見舞いとか行ったらお邪魔かな?」
「確かに難しいところだね…」
結ちゃんは真緒くんが休んでいる理由を知らないようで心配そうにしていた。
私も、お見舞い…行ったらお邪魔かな…
そんな様子が2週間続いた。
今日も変わらず雨。
「おーい席につけー。」
朝のホームルーム。
担任の声にみんなゆっくりと席に着く。
「昨日、この付近で誘拐未遂があったらしい。まだ犯人捕まってないから下校気をつけろよ〜」
誘拐犯。
聞くのも嫌な単語だったが、大丈夫と心で唱えながら朝のホームルームが終わった。
休み時間。
「誘拐事件と言えば数年前もこの辺で誘拐事件あったよね?」
「そうなの?冴ちゃん知ってる?」
結ちゃんから昔の誘拐事件の話が出て思わず固まってしまった。
思い出さないようにしていたから……
「冴?」
「…あっ。あった…気がする」
「どんなだったの?」
「強盗犯が逃げて、街中の角でぶつかった中学生を人質にしようと誘拐しかけたところを警察が見つけたとかだった気がする!」
「なにそれ怖っ」
「確か同い年くらいだったと思うよ。」
あぁ…やっぱり私の話だった。
結ちゃんや七尾くんに迷惑をかけまいといつも通りに振る舞い、1日を終えた。
しかし、やはり消そうとしていた記憶を詳細に話されてしまうと思い出してしまう。
下校時刻になっても外へ足が向かず、しばらく教室に残ることにした。
ピコン
「女子2人〜不審者気をつけて帰れよ〜」
グループLINEに七尾くんからメッセージが入っていた
ピコン
「当たり前に気をつけて帰るよ〜」
結ちゃんからも。
さすがに返信しないのもどうかと思い、スタンプのみ返した。
記憶を塗り替えよう。
そう思いながら机に伏せると気づくと夢の中だった。
-Side 真緒-
9月。
雨も多く台風の影響もあり、2週間ほど学校を休んでいる。
事情を知らない、快や片桐からLINEも来る。
体調がいい日は返信もしていた。
冴からは…きっと気を使っているのかLINEが来ることはなかった。
来週からは台風も過ぎるようなので体調も大丈夫だろう。
そう思っていたある日の夕方。
衝撃的なLINEが来ていた。
「女子2人〜不審者気をつけて帰れよ〜」
4人のグループLINEへ送られてきた、快からのメッセージだった。
片桐も冴も返信している。
しかし、引っかかったのは"不審者"という文字だった。
「不審者ってなに?」
そうメッセージを入れてみると、すぐに快から返信がきた。
「学校の近くで誘拐未遂があったらしい。犯人捕まってないから気をつけろって先生が。」
誘拐未遂、不審者。
その2つの単語は冴にとってはかなりシビアな問題だ。
そう思った俺は、すぐに冴へ個別のメッセージを送った
「冴、大丈夫か?」
既読は付かなかった。
心配だったこともあり、家へ帰り着く時間に向かったが、誰もおらず留守だった。
もしかして、誘拐された?いや、怖さを感じてどこかに1人でいるかもしれない。
そう考えていたら、家でゆっくりしてもいられず体調も気にせず外へ飛び出していた。
-Side 冴
目が覚めたころにはすっかり薄暗くなっていた。
夕日のある時間の方が怖さは強かったが暗くなれば気持ちは少し軽かった。
早足で帰ろう。
そう思い、学校から出る支度をし校門から出ると、そこには真緒くんが立っていた。
「よかった。冴。学校にいて。大丈夫?」
「真緒くん…?体調…大丈夫なの…?」
「冴が連絡しても出ないから。」
携帯を見ると、真緒くんからのメッセージと着信履歴がたくさん来ていることに今更気がついた。
「どうして?」
「快から不審者の話を聞いたから。」
「あぁ…大丈夫なのに。」
「そうか?」
「うん!…心配してくれてありがとう。」
大丈夫なわけない…。きっと一生背負っていく心の傷。
だからこそ、自分でなんとかしないと。
精一杯の笑顔で真緒くんへ言葉を返した。
「ほんと。馬鹿なの。」
「え?」
気づくと近づいてきた真緒くんの胸の中にすっぽりと収まってしまっていた。
「泣きたい時は泣いていい。もっと頼れよ」
そう。本当は怖かった。泣きたかった。
誰かに助けてほしかった。
真緒くんの言葉と温もりを感じて泣きそうになってしまった。
でも……
「…真緒くん。私じゃなくてさ、好きな人に優しくしてあげて…」
「は?」
「…体調も悪いのに来てくれて、ありがとう。帰ろう。」
本心も言葉にしてしまったが、お礼を伝えて一緒に家へ帰った。
道中、真緒くんとは一切話さないまま。