8月に入り、高校生活最後の夏休みも中盤に差し掛かっている。


結ちゃんと高校生活最後の夏休み、定番の夏祭りデートを楽しみたいという話になり、真緒くん・七尾くんを誘って夏祭りへ行くことにした。


夏祭りはこの地域で最大の規模ということもあり、多くの出店で賑わい、夜には花火も打ち上がる。


18時。
お祭りが行われる近くの神社でみんなと待ち合わせた。
結ちゃんからもちろん浴衣だよね!と念押しされ、今日は浴衣を着た。
淡い水色に黄色と白の花柄の浴衣。下駄なんかも履いてお祭りモード満載で少し恥ずかしくなる自分もいた。

待ち合わせは18時半だったが少し早く着いてしまい、キョロキョロ辺りを見回してみると、素敵な浴衣を着た人がたくさん居た。
嬉しさや楽しさもあったが、自分は似合っているのだろうかとも不安になった。

「冴!おまたせ!」
「結ちゃん!可愛い♡」

ピンクの浴衣はとても女の子。いつも可愛い結ちゃんだが、今日はさらに可愛かった。

「真緒くん可愛いって言ってくれるかな?」
「うん!きっと言ってくれるよ!」

今日の結ちゃんはいつにも増して恋する乙女だった。
そうだよね、好きな人とお祭りに来るなんて恋する乙女がきっと1番理想なシチュエーション。
今日もどこかで協力してあげないと。
そう思いながらも、嫌と思ってしまう気持ちも少しあった。

友だちの恋くらい応援しないと。

そんな事を考えている合間に、真緒くんと七尾くんも到着した。

「わ〜!2人とも可愛い!浴衣は女の子の特権だよね!」
「ありがとうございます。」
「ありがとうだけど、快に褒められても嬉しくない〜」

七尾くんはいつも通りしっかりと言葉にして褒めてくれる。

「ねえ、真緒くん!どう?可愛いかな?」
「いいんじゃない?」

積極的な結ちゃんさすがです。

「よし!出店いこう!」

結ちゃんの一言で人混みの中を進んで行った。

ノリノリな結ちゃんと七尾くんが前を歩き、その後ろを私と真緒くんが歩いて進んだ。

真緒くんとはこの2ヶ月くらいで、知らなかったことをお互いに知ることになった。
4年間も間が開けば当たり前に知らないことも増えてくる。
そして先日、ようやくLINEも交換できた。
真緒くんとの関係が少し前と同じように戻ってきている気もした。

「その浴衣どうしたの?」
「えっと、買ったよ。お祭りのために。」
「そ。可愛いじゃん。」
「え…あ…ありがとう。」

そんな事を考えている矢先に、真緒くんに可愛いと言われ動揺が隠しきれなかった。
いや、浴衣が可愛いってことだよね。私じゃなくて。
結ちゃんに言ってあげてよ…と思う傍ら自分へ言ってもらえたことへの嬉しさもあった。


「射的しようよー!」

しばらく歩くと、七尾くんの一言で射的大会が始まった。
狙いは1番大きなぬいぐるみ

私と結ちゃんは1発も当たらず終わったが、真緒くんと七尾くんは互角。
最後は、七尾くんが落とした。

「はい、冴ちゃんにあげる!」
「え、七尾くんが取ったのに。もらえないです。」
「こういうのは女の子が持ってる方が似合うから」
「じゃあ結ちゃんの方が…」
「結はきっと、真緒が取ったのじゃないなら要らないって言われるからさ(笑)」

そういうことで、大きなぬいぐるみを持って動くことになった。
ぬいぐるみを抱えて人混みを歩いていくのは至難の業だった。

結ちゃんがどんどん離れて行ってしまう。そう思っていた時に手を伸ばしてくれたのは真緒くんだった。

「ほら」

そう言って私の手を掴み歩いてくれた。
心臓が激しく動いている。人混みで疲れてしまったのだろうか。ドキドキという音も大きくなっているように感じた。

「次はたこ焼き食べよ!」

結ちゃんのリーダーシップ力に驚かされながら、買いに行ってくれた男の子たちを2人屋台の後ろで待った。

「ねえ、冴」
「なに?」
「私、今日真緒くんに告白する!」
「え!?ほんとに?」
「うん、だからこの後」
「わかってる、そのつもりだったよ!」
「ありがとう冴ー!」
「頑張ってね結ちゃん!」

結ちゃんが真緒くんに告白する。
結果がどうなるかわからないけれど、私までドキドキしてきた。

たこ焼きを食べたら、七尾くんと2人また逃げよう。
そう思い、帰ってきた七尾くんに耳打ちしたのだった。

「OK!」

全てを察してニヤッと笑った七尾くん。
この人も顔が綺麗だなあと改めて思った。

たこ焼きも食べ終わり、

「飲み物買ってくるね!」
「俺も一緒にいく!」

結ちゃんと真緒くんにそう言い残してお祭り会場を後にした。


お祭りを抜けると一気に現実に引き戻される。
じわっと足の痛みも感じ始めた。

「花火見たかったなあ〜」

何となく呟くと、

「いい所あるよ!」

そう言って七尾くんが人気のない川沿いへ連れて行ってくれた。
そして足を見てみると、下駄で靴擦れを起こしていた。
でも、せっかく連れてきてもらったのだからと何も無い素振りを見せ空を見上げた。

ヒューッ ドーン!!
ヒューッ パンパンパーン!!

色とりどりの花火。
そういえば、お祭りに来たのも久しぶりだった。

「七尾くん。」
「なーに?」
「私となんかでごめんなさい。花火見るの。」
「なんでよ。全然!俺は、冴ちゃんと見れて嬉しい!」
「そう言ってもらえるなら良かったです。」

1人じゃなくて、七尾くんと一緒に見れて良かった。

花火も終わり、七尾くんとも分かれての帰り道。

靴擦れの痛みが増して、ゆっくり歩くのがやっとだった。
夏の夜。暑さと涼しさが混じったこの気温と靴擦れの痛みが、私の気持ちを感傷的にさせた。

道路の端に座り込み、空を見上げた。
真緒くんと結ちゃんはどうなったのかな。
もうこのまま今日はここで朝を待とうかな。
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「冴?」

今、1番聞きたかった声。会いたかった人だった。
しかし、上を向いているから、前を見たくても見れなかった。

涙がこぼれてしまいそうだったから。

涙を見られたくなくて、勢いよく下を向き涙をふいて再び顔をあげた

「あれ?真緒くん?」
「何してんの?」
「えっと…七尾くんと分かれて…迷子?」
「たく、しょうがない。」
「真緒くんがいるってことはこっちで合ってるね!」

心配かけまいと歩き出したが、痛みに耐えきれずそのまま転んでしまった。

「あはは…浴衣に慣れてないから…」
「はい、嘘」
「嘘じゃないよ!浴衣って難しいの」
「足痛いんでしょ」

なんで、真緒くんにはバレちゃうんだろうね。

「大丈夫だよ。歩いて帰れるから。」
「何かあったら連絡しろって言ったのに。」

そういうと私を背中に乗せた。

「待って、真緒くん。大丈夫だから。ほんとに。」
「いくよ。」

真緒くんにおぶられて帰宅することになってしまった。

自分の重さに申し訳なさも感じながら、でも真緒くんの温かさも感じながら、気づくと目を閉じていた。