--真緒side--

今は1学期の期末テスト前。

今日は片桐の家で、快と冴と4人で集まってテスト勉強をしていた。

「真緒くん、ここわかる?」

片桐はよく俺に聞いてくる。
俺、そんなに英語得意じゃないけど。
快や冴の方がとも思うが、わからない問題ではないので答える。

一方の快は

「冴ちゃん、これなんて読むの?」

冴に漢字の読み方を聞いていた。
快は転校初日から仲良くしてくれて、頭が良くて良い奴だが、なぜか国語だけはめっぽう弱いらしい。

1年前の俺からするとこんなに普通の日常に戻れるなんて思ってもいなかった。

そして数週間前、俺は最近の梅雨時期あるあるで学校で発作を起こした。
今はもう、落ち着いているがあの時は冴に迷惑をかけてしまった。

冴の方を見ると一生懸命、快に漢字を教えていた。
相変わらず優しいやつ。少しモヤモヤするけど。

俺は冴が好きだ。

これは幼稚園からずっと。
だから発作が起きた日、冴にあんな姿は見せたくなかった。
幻滅されただろうな、もう関わらないかもしれないな。
そう思っていたが、変わらず今も4人で居てくれている。

後で母さんに聞いたが、発作のことは話したらしい。
まあ、一緒にいたらいずれバレることだったし。


それからしばらく勉強会は続いた。


17時。
勉強会も終わるとそれぞれ帰宅することになったが、冴と俺は家の方向が一緒。快とは反対方向なこともあり、すぐ2人になった。

しばらく2人になることが無かったから久しぶりということもあり、この前のお礼を伝えることにした。

「あのさ、この前」
「この前?」
「学校で。一緒に居てくれてありがとな。」
「あ…うん、真緒くんになんともなくてよかったよ。」
「母さんから聞いたんだろ。発作のこと。」
「うん…」

明らかに何か言いたげな表情。
ただ、前にした約束がある限り、きっと冴からは聞いてこない。
冴にごめんと思いながら歩き続けていると、曲がり角から人が走って出てきて冴にぶつかった。

「わっ!」

冴の驚く声と共にそのまま地面へ座り込んでいた。

「大丈夫?」

声をかけたものの返事がない。
顔を覗き込んでみると、真っ青な顔をしていた。

「どこか痛いのか?歩けるか?」
「あ…うん。大丈夫。ごめん。」

普段の冴からは聞かない感情の無い声が聞こえてきた。
そのまま家に向かって歩き始めたものの、明らかに足取りは先程と違った。


いつもは俺の家の前で分かれるが、今日は冴が心配だったので、冴の家の前まで送ることにした。

家の前に着き、そのまま入っていく冴。
その姿が心配で仕方なかった俺は

「冴、おばさんいるか?」
「…いると思う。待ってて。」

咄嗟におばさんへ伝えようと思い、おばさんに会うことにした。

数年ぶりの冴のお母さんだったが、子どもの時から会っていることもあり緊張も無くさっきの出来事を話すことができた。

「で、どうしたの?まあくん。」
「まあくんは恥ずかしいので勘弁してください。」
「あら、そう。」
「それで、冴なんですけど。」
「さっきの話ね。まあくんが中学入ってからなんだけど、冴1回誘拐されかけたことがあってね」

初耳だった。母さんからもそんな話は聞いていないし、もちろん冴自身からも聞いた事がなかった。

部活の帰り道、強盗犯として追われてた男に出会い頭でぶつかりそのまま連れ去られそうになったのだとか。今日のような夕日の綺麗な日だったそう。

この前の俺と同じ、きっと冴もフラッシュバックしたのだと感じた。

おばさんの許可も経て、冴の部屋を尋ねた。

コンコン
「冴、俺。」
「ごめんね」
「いや、なにも冴悪くないだろ」
「ママから聞いたの?」
「ああ。俺と一緒だったんだな」
「…………」

気づくと俺は冴の頭を撫でていた。

「怖かったよな。助けてやれなくてごめん。」
「なんで真緒くんが謝るの。私のせいだから…ね。」

そう言って俺を見上げる冴はやっぱり1番大切にしたい人だった。

冴はどう思っているか分からないが、この気持ちはちゃんといつか伝えて、冴を大切にしたい。そう思った。

「そういえばLINE交換してなかったよな。何かあったら連絡して」
「いいの?」
「幼なじみにダメって言うやついる?」
「ありがとう。」

そう言いながら、LINEに1つ大切な連絡先が増えたのであった。