6月に入った。
特に学校行事も無い月。
ただ、季節の変わり目で雨の日は多かった。
そして今日は修学旅行の班決めがあった。
修学旅行は9月。
まだ3ヶ月先だが夏休みなども挟んでしまう為、早めの準備となった。
班決めといっても4人1班。
決めずとも決まっていることもあり、すんなりと班決めは終わった。
結ちゃんも七尾くんも変わらずよく話し、よく面白い話題を提供してくれる。私も、真緒くんもお喋りな方ではないがよく笑っていた。
しかし、最近の真緒くんは何となく元気がない様子もある。本人とマイナスな話はできるだけしたくないこともあり、特に聞かずにいたが顔色も日に日に悪くなっているように感じた。
翌日。
台風が接近しているということで午後の授業は休校になり、全員下校となった。
私は、提出しなければいけないプリントを提出し忘れていたことを思い出し、みんなが帰っていく中職員室へ向かっていた。
「失礼しました。」
こんな日に届けなくて良いのにと言われたが、きっと提出しないと減点される。
急いで提出を済ませ、下駄箱に向かうともうほとんど人は居なかった。
雷も鳴り始め、雨も少しずつ強くなっている。
急いで帰ろうと傘をさし下駄箱から1歩踏み出したときだった。
玄関の隅で座り込んでいる人影を見つけた。
「…真緒くん?」
名前を呼んでも特に反応がない
近づくと震えているのが分かった。
「大丈夫?」
そう言いながら体に触れようとすると、無言で手を払い除けられてしまった。
「真緒くん…」
何もしてあげられないと思ったが、1人にしておくのも違うと思い、そばで座り落ち着くのを見守った。
10分ほど経ったところで、下駄箱を先生が通りかかった。
そして、真緒くんの姿を見るなり先生を数人集め、保健室から担架を担ぎ、真緒くんを乗せて運んで行ってしまった。
ただ呆然と見ていることしかできなかったが、何かが起こっているということは明白だった。
そこから1週間。
真緒くんは学校に来なかった。
七尾くんがLINEにメッセージも入れていたようだが既読もつかないとのことだった。
あの日の真緒くんの様子は普通ではなかった。
とにかく心配という気持ちが強く、
意を決して、真緒くんの家に行くことにした。
ピンポーン
「はーい」
ガチャッ
「こんにちは。」
「あっ…さっちゃん。ごめんなさい、忙しくて。」
「いえ、突然ごめんなさい。」
「先週はありがとうね。学校の先生から聞いてるわ。あがって。」
そう言って、おばさんは家にあげてくれた。
大好きな紅茶を出してくれたが、最初は喉も通らなかった。
すると、おばさんが少しずつ話始めてくれた。
「この前、下駄箱で座っていた真緒を見守っててくれたみたいね。ありがとう。」
「いえ、お気になさらず。でもあの日の真緒くん、別人みたいで…。何があったんですか?」
しばらくの沈黙。やはり聞いてはいけないことだったのかもしれない。そう思っていると、おばさんはゆっくりと口を開いてくれた。
「何があったかはさっちゃんでもやっぱり私からは言えないけど、先週のことはちゃんと伝えないとね。今の真緒はね、雨が苦手なの。」
「雨が苦手…?」
「嫌な記憶がフラッシュバックするみたいでね。多少の雨なら頭痛で済むみたいなんだけど、先週の雷と雨足の強さはダメだったみたいで。パニックの発作を起こしちゃったみたいなの。」
「今、真緒くんは?」
「今は部屋でゆっくりしてるわ。もういつも通りよ。来週には普通に登校できると思う。」
「それなら良かったです。すみません、話しにくい話を聞いてしまって。」
「いいえ。さっちゃんが助けてくれて感謝してるのよ。」
少し落ち着いてからようやく紅茶が喉を通り始めた。
そして、紅茶を全て飲み干し、おばさんにお礼を言って家を後にした。
あれは、パニックの発作だったんだ。
確かにいつもの真緒くんの様子とは違った。
パニックが起きてしまうのはどうして。
やっぱり転校してきたのと関係があるの?
知らない4年間で何があったのだろう。
もう聞かないと言ってしまったもののやはり気になってしまうのであった。