そしていよいよ迎えた修学旅行。
行先は京都奈良。
新幹線も貸切車両ということもありワイワイしながら、京都駅へ向かった。
結ちゃん、七尾くん、真緒くんと4人席を向かい合わせて、2日目と3日目の自由行動の話し合いをした。
あれから真緒くんとは話さないまま時が過ぎていた。
1日目は全員で奈良の観光。2日目、3日目はそれぞれ学校の指定したチェックポイントさえ行けば良い自由観光だった。
「2日目は嵐山だから、渡月橋と竹林の道と…」
「もう、結に任せておけば大丈夫じゃない?」
「みんなで決めるから楽しいのに〜」
「結ちゃんがきっと1番詳しい気がするよ」
「じゃあ結が決めるってことで」
「えー、じゃあ行程表作るのは真緒くんも手伝って?」
「え、俺?」
「うん!」
「よろしく頼んだ、真緒と結!」
結ちゃんと真緒くんが行程表を作っている中、私は横の席の七尾くんとお話することになった。
「そういえばさ、真緒と冴ちゃんって仲良いの?」
「な、なんででしょう?」
「いや、4人で一緒にいること多いけど、2人が会話してるのって見たことないなって思って」
「そうですか…?たまに話してはいますね。仲良いかは分からないですが…」
確かになるべく話さないようにって意識していることもあってか、真緒くんとは話すことが少ない。
一緒にいるのに仲が悪く見えてしまっただろうか…そんなことも考えながら気づくと目的地の京都駅へ到着。
そこからバスで、最初の目的地奈良公園へ向かった。
奈良公園といえば鹿。
私は鹿に会えることも楽しみにしていた。
「みて!鹿!」
「冴がテンション上がってるの珍しいね!」
「鹿でテンション上がっちゃうって冴ちゃん可愛いね」
結ちゃんと七尾くんにからかわれながらではあったが、鹿たちに鹿せんべいをあげることも楽しみにしていたので、鹿せんべいを買いに行った。
遠くの方では結ちゃんたちは鹿と追いかけっこ(?)を楽しんでいる姿が横目に見ながら、のんびり鹿せんべいをあげていると、突然横に真緒くんが現れ、私の手からすり抜けるように鹿せんべいを1枚取ってあげていた。
「あ!」
「1枚くらいいいだろ」
「1枚だけね。」
「新幹線で快になんか言われた?」
「いや…特には。」
「それならいいけど。」
真緒くんは何かを気にしているようにも見えたが、久しぶりに普通に会話ができた。
少し安心しながら、話している間にあっという間に鹿せんべいもあげきり、結ちゃんと七尾くんの元へ合流した。
その後も修学旅行らしく東大寺や春日大社、庭園など歴史的なものを見て回るとあっという間に1日目が終わった。。
2日目は京都の嵐山。
昨日、結ちゃんと真緒くんが行程表を作ってくれたおかげでスムーズに回ることができた。
その日の夜。
泊まっている旅館は温泉付きということで結ちゃんと温泉へ入り、ゆっくりしてから出ると前には七尾くんが居た。
「あれ?快どうしたの?」
「あ…えっと…冴ちゃんに話あって」
「私?ですか?」
「うん」
「了解!じゃあ私、先部屋戻ってるから!」
七尾くんが1人できて、私に話があるなんて珍しいと思いながらも人気のないロビーで椅子に座り話を聞いた。
「月、綺麗だね」
「はい、星も綺麗です。」
改まって2人で話すことは初めてだったのでなんだか緊張した。
「冴ちゃんに話なんだけど……」
「なんでしょうか」
「冴ちゃん、俺と付き合ってください!」
「?!えっと…」
「実は、真緒に呼び出されて初めて会った日。冴ちゃんに一目惚れしまして。」
「あ…ありがとうございます。」
突然の告白に驚いてしまい、咄嗟に出てきた言葉がありがとうございますだった。
「いきなりで驚いたよね。返事はすぐじゃなくていいから。明日、教えて!」
そう一言残し、七尾くんは部屋へ戻ってしまった。
残された私は、とりあえず理解が追いつかず、そのまま窓の外の星を眺めていた。
しばらくして、部屋に戻ろうと思い戻ると、不安そうな表情で結ちゃんが待っていた。
「冴、おかえり!」
「ただいま。」
「あれ?なんかあった?」
「実は…」
結ちゃんに七尾くんとの話を全て話した。
「なんとなくそんな気がしてた!」
「ええ!?」
「実はさ、真緒くんの協力をお願いしたときに、快が冴のこと好きって聞いて。お互いに協力することにしてたの。」
「そうだったの!」
まさかのことでびっくりしたけど、もしかして真緒くんも知ってたのかなと少し気になった。
「知らなかったの私だけだったりする?」
「んーたぶん、真緒くんも知ってたんじゃないかな?」
真緒くんも知ってたんだ…なんだか複雑な気持ちだった。
「で、冴。どうするの?」
「迷ってる…かな。」
「そっか!快はいい人だと思うよ!優しいし。」
「そうだよね。考えてみる!」
そうは言ったものの中々答えもでないまま次の日を迎えてしまった。
3日目は同じく京都だが清水寺周辺の観光。
考えすぎて眠れず、寝不足なまま最終日を迎えた。
「お土産何にしよう!」
「やっぱ京都だし八ツ橋だろ!」
相変わらずの結ちゃんと七尾くんの元気なコンビは色々見て回っている。
「冴ちゃん!お土産これとかどう?」
「あ…うん。いいかも。」
昨日の今日ということもあって変に意識してしまう。
「伊藤、なんかあった?元気?」
周りに人がいることもあり、よそ行きモードの真緒くんだったが私の様子が違うことに気づいたようだった。
「あ…少し寝不足で…」
「エナジードリンクでも飲む?」
「ありがとう。」
自販機を見つけて買ってきてくれた。
その小さな優しさがまた嬉しかった。
その後も色々買い物に回っていたけれど、七尾くんとはどう話していいか分からず急に他人行儀になってしまったりしていた。
「やっぱりなんかあったでしょ?快?」
勘の鋭い真緒くんにはやっぱりお見通しだった。
「あ…うん。」
そこにちょうど七尾くんも来た。
「冴ちゃん、今日俺の事避けてるでしょ?」
「避けてるつもりはないですが…どうしていいかわからず…」
「何かあったの?」
「実は、冴ちゃんに告白してさ!今日中に返事もらう予定。ね!」
「うん…」
「じゃあまた後で!」
七尾くんは真緒くんに伝えるだけ伝えて、嵐のように去っていった。
「で、なんて返事するの?」
「まだ決めてなくて。」
「そう。」
それだけ言うと真緒くんも2人のところへ行ってしまった。
真緒くんには決めていないと伝えたものの、心の中ではもう何となく答えはきまっていた。
帰りの新幹線の時間になり、もうここで伝えないとと七尾くんを列車の連結部に呼び出した。
「返事は決まったかな?」
「はい…ごめんなさい。お付き合いは難しいです。」
「そっか。理由聞いてもいい?」
「えっと…小さい時から気になる人がいまして…」
「その人が好きなの?」
「好きかは分からないです…でも大切な人なのでいつかは伝えられたらと思います。」
「じゃあ俺は諦めない!冴ちゃんがその人を好きじゃないかもしれないし、まだ付き合うかもわからないし。」
「え!」
「でも、一旦は引くから大丈夫だよ。ありがとう。返事してくれて。」
「いえ…こちらこそ、ありがとうございます。」
「ま、これからもいつも通りよろしく!」
「はい!」
話も一区切り付き、スッキリとした状態で修学旅行を終えることができた。
新幹線を降りるとすぐに解散となり、疲れていたのでそのまま家へ帰ることを選択した。
すると、ホームで座っている真緒くんを見つけ、目が合った。ただ少し表情は怖かった。
「快とは話したの?」
「うん」
「告白は?」
「…お断りしたよ」
「そう。」
話終えると、真緒くんの表情は少し和らいだようにも感じた。
「なあ、冴。」
「なに?」
「来月の休み、空いてる日ある?」
「基本的には空いてるけど…」
「冴が行きたいとこ行こ。」
「いいの?」
「じゃあ日にちまた連絡するわ」
いきなりのお誘いで驚いたけれど、2人で久しぶりにお出かけすることになった。