私は振り返って、杉谷くんを睨み付けた。

「いや、別に。ただ、お前の周りには、いつも人が居るなぁと思って。ちょっとだけ、羨ましくなったんだよ。」

なんで、そんな寂しそうな顔するの?

「悪かったな、呼び止めて。じゃあな。」

背中を向け、1人自販機から離れていく。その姿を、私はただじっと見つめていた。

「あれ、祈歌《きう》?」

トイレから戻ってきた葉南《はな》が、私を呼ぶ。

「待っててくれたんだ?先戻っても良かったのに。」

「え?あぁ、うん。あのさ、杉谷くんって、いつも1人だよね。」

「杉谷くん?そりゃあ、悪い噂しかないからねぇ〜。中学の時にクラスメートを殴ったとか、窓ガラス割ったとか、色々聞くし。」

やっぱそうなんだ。ひとりなんだ。だから、寂しいのかな。

お昼、いつも何処で食べてるんだろう。
ひとりで食べてるのかな。

誰かと一緒に居るところを見た事ないし。

本当に一匹狼だ。

杉谷くんと初めて話したのは、5月半ばの事。
絶対に関わりたくないと思っていたのに、まさか、自販機での出来事をきっかけに、仲良くなるなんて、この時の私はまだ、知らなかった。