『その様子だと、満足したようだな』

僕は、サイレンを鳴らしながらやってきた、救急車を冷ややかな視線で見つめる。

「……ねぇ、タナトスは、こうやって、なんでも僕の願いを叶えてくれるの?」

『当たり前だろう。俺はお前、お前は俺なのだから。お前が腹が立てるヤツや、消して欲しい人間は、すぐさま削除して、お前を守ってやる』

僕は、スーパーヒーローになったかのように気分が高揚していた。そして、まるで自分が魔法使いみたいに、この世のあらゆる事を、何でも自由自在に操れるような錯覚すら起こしていた。

『次の願いは?』

タナトスの低い冷たい声が、頭にじんと響いてくる。

「恋人が欲しい。学年一、美人の早川加織(はやかわかおり)と付き合いたい」

僕は、この願いは、いくらタナトスでも叶える事なんて、できないんじゃないかと思いながらも口にしてみた。

『ふっ、お安い御用だな……』

「え……?」

タナトスがパチンと指を鳴らせば、目の前から、早川が、花柄のワンピースを揺らしながら歩いてくる。

「あ、満君」

今まで早川から、話しかけられた事もなければ、視線があったことすらない。そんな、早川と僕との今までの関係が、嘘のように、早川は、親しげに僕を下の名前で呼ぶ。

「えっと……早、川、どうしたの?こんなとこで……」

早川は、大きな黒い瞳を細めると花が咲いたように笑う。

「こらこら、私達付き合ってるじゃない」

「え?!僕と、早川が?」

ーーーーそんな事ありえない。

だって、早川は、サッカー部のエースでイケメンの戸沢(とざわ)と付き合っていたはずだ。

「だって……戸沢は?」

「もうっ、満君ったら酷いよ。戸沢君には、満君と付き合ってるからって、告白されたけど、こっ酷く断ったじゃない」

早川は、当たり前のように僕の腕に絡みつくと、頬にキスを落とした。