キキーーーーッという急ブレーキの音と共に、トラックが、横断歩道を青信号で渡っていた、男子高校生と接触する。

途端に辺りは、善意という名の仮面を被った、善人気取りの、人間達が群がっていく。

『おい、誰か救急車呼んでくれっ!』

『医者は居ないのか!?』

『私、看護師です』

僕は横断歩道の目の前の喫茶店の下で、その様子を傍観していた。

「す、凄いね、タナトス」

僕の影となったタナトスを見下ろしながら、誰にも聞かれないように小さく呟いた。

『どう?これで信じてくれた?満』

タナトスは影から僅かに浮かび上がると、黒い長めの前髪から、僅かに一重瞼をのぞかせて口元を三日月に模した。

その微笑みは何度見ても、この世のものとは思えない、背筋が凍りつく様な異様なモノだった。

「うん。まさか本当に不慮の事故で僕の目の前で、寺本(てらもと)がこの世から居なくなるなんて……」

僕は思わず言葉に詰まりながら、口元を覆い隠すと、声を抑えながら笑った。

「不慮の事故って、こういう仕組みだったんだね」

『あぁ、世の中、不確かな事など存在しない。人間が、知らないだけでね。全ては決まっているのさ』

僕はクラスメイトの寺本彩樹(てらもとあやき)が、大嫌いだった。毎日毎日、殴られて蹴られて、弁当に砂を入れられて、教科書はもはや捲っても捲っても落書きだらけだ。

居なくなればいいのに……。立ち向かう勇気も強い心も持ち合わせていない僕は、何か見えない力で、寺本を葬ってほしい。一秒でも早くこの世から居なくなって欲しいと、ただいつも強く願っていた。