〇学校・教室(HR)
黒板に文化祭の出し物候補が書いてあり、それぞれ下に正の字で多数決の結果が記されている。
委員長「私たちのクラスはプラネタリウムに決まりました」
ざわざわと盛り上がる生徒たち。芽衣と朱里もワクワクする気持ちを隠しきれず楽しそうに話している。
そんな芽衣の姿を少し離れた席から見ている男子生徒がいた。

〇学校・教室(放課後)
文化祭の準備をしている生徒たち。プラネタリウムに使う黒い布を繋ぎ合わせている芽衣と朱里。
そこに手伝いに来た男子生徒。サラサラのマッシュヘア、ぱっちりとした丸い目で中性的な顔立ちの、あざとかわいい男子。
佐倉「こっち手伝いに来たよ」
朱里「めっちゃ助かる!これお願いしてもいい?」
作業を進めていくと布が足りなくなる。
芽衣「私、追加の布取ってくるね」
佐倉「僕も一緒に行くよ」
朱里「よろしくー」
布を縫っている最中で手が離せない朱里。芽衣と佐倉で別の教室に置いてある布を取りに行くことになった。

〇学校・廊下(放課後)
隣に並んで歩く芽衣と佐倉。なぜか佐倉とは緊張せずに話せる芽衣。
佐倉「針山さんって甘い物好き?」
芽衣「大好き!」
佐倉「購買に現れる幻の“あまあまパン”って知ってる?」
芽衣「何それ?初めて聞いた」
佐倉「僕も出会えたことないんだけど、クリームいっぱいで超甘いんだって!」
芽衣「へぇー、食べてみたい!」
佐倉「だよね、絶対美味しいよ!」
芽衣(あれ?私、男の子と普通に話せてる?)

〇学校・倉庫(放課後)
少し高いところにある布を取ると思いの外重くてよろけた芽衣を受け止める佐倉。
芽衣「わわわっ!」
佐倉「おっと、怪我してない?」
芽衣「大丈夫、ありがとう」
芽衣が持っている布を半分以上引き取る佐倉。
佐倉「僕にも持たせてよ」
芽衣「でも、佐倉くんの方が重くなっちゃう」
佐倉「僕、こう見えて力あるから平気だよ」
佐倉の腕を見るとほどよくついている筋肉。

〇学校・教室(放課後)
朱里「おかえり」
教室を出て行く前より距離が縮まった芽衣と佐倉を見てニヤニヤしながら聞く朱里。
朱里「あらら?おふたりさん近くないですか?」
肩が触れ合うほどの距離にいる芽衣と佐倉。
芽衣(あれ?私、佐倉くんなら近くても緊張しないかも)
それから文化祭準備を通じて佐倉と仲を深めていく芽衣。

〇学校・屋上(昼休み)
お昼ごはん食べている怜王と友樹。そこに来た朱里。
友樹「あれ、ハリちゃんは?」
キョロキョロと周りを見て探す友樹。
朱里「男子に誘われてふたりきりでラ・ン・チ」
怜王「ふーん」
怜王の頬を両側からつつく朱里と友樹。
朱里「気に入らないって顔に出てるよ〜」
友樹「わかりやすいな〜」

〇学校・空き教室(昼休み)
太陽が差し込む空き教室の床に座ってお昼ごはんを食べている芽衣と佐倉。
佐倉「じゃーん!幻の“あまあまパン”ですっ!」
芽衣「これがあの噂の!」
半分こした“あまあまパン”を両手で持って食べる芽衣と佐倉。一口食べると溶けそうなほど幸せな表情になる。
芽衣・佐倉「おいひい〜」
芽衣の鼻についているクリームを指で取る佐倉。
佐倉「ふふ、ついてるよ」
芽衣(やっぱり、佐倉くんなら触れられても平気だ)

〇学校・廊下(放課後)
文化祭の準備に使う材料を持って教室に戻る途中の芽衣。空き教室の前を通ったときに怜王の声が聞こえて足を止める。
怜王「愛してる」
教室の中では怜王が女子生徒を抱きしめている。
芽衣(獅子尾くん、彼女いたんだ…)

〇学校・教室(放課後)
芽衣が教室に戻ると明らかに不機嫌モードの朱里。
朱里「もう!何あれ!?」
芽衣「どうしたの?」
朱里「さっき友樹がいる教室の前を通ったら…」

〇(回想)学校・廊下(放課後)
友樹がいる教室の前を通りかかった朱里。教室の中には採寸中、女子生徒から触られてニヤニヤと満更でもない表情の友樹がいた。それを見て朱里はご機嫌ななめなのだ。
(回想終了)

〇学校・教室(放課後)
朱里「鼻の下伸ばしちゃってさ!」
芽衣「それって…嫉妬だよね」
急に早口になる朱里。
朱里「え!?違う違う!私があいつに嫉妬なんかするわけないじゃん!」
芽衣「へぇ〜」
慌てる朱里を見てニヤニヤする芽衣。

〇学校・屋上(昼休み)
ぽつんと寂しそうにお昼ごはんを食べている怜王と友樹。
友樹「今日も俺らだけやんか」
怜王「ずっと来てないな」
友樹「教室行ってもおらんし、どこにおるん?」
芽衣は怜王に、朱里は友樹に会うのが気まずくて避けるようになっていた。

〇学校・教室(朝)
文化祭当日。同じクラスの女子生徒にシフトを変わってほしいと頼まれる朱里。
女「急遽、彼氏が来てくれることになってシフト代わってもらえないかな?」
朱里「彼氏と楽しんでおいで」
女子生徒の背中を押す朱里。
女「ありがとう!今度、デラックスパフェ奢る!」
そう言って、女子生徒は嬉しそうに教室を出ていった。
芽衣と一緒に文化祭を回る予定だった朱里は手を合わせて謝る。
朱里「ごめん、一緒に回れないわ」
そこに現れた佐倉。
佐倉「僕と一緒に回らない?」
朱里「佐倉くんなら食べ物の好みも合うし、いいじゃん!」

〇学校・ワッフルの模擬店(午前)
そんなこんなで一緒に回ることになった芽衣と佐倉。
芽衣・佐倉「あっ!ワッフルだ!」
目を見合わせて笑い合う。
佐倉「あははっ、揃ったね!」
芽衣「ふふっ、すごい!」
机を挟んで向かい合うように座る芽衣と佐倉。机の上にはタピオカミルクティーとホイップたっぷりのワッフルが並んでいる。
佐倉「はい、あ〜ん」
芽衣「チョコ味も美味しいね」
自然とお互いに食べさせ合う芽衣と佐倉。
女「ギャー!」
隣のクラスから聞こえてくる悲鳴。
芽衣「お化け屋敷かな」
佐倉「行ってみる?」
勿論、怖い気持ちはあるが案外楽しめるタイプの芽衣と佐倉はお化け屋敷に向かった。

〇学校・お化け屋敷(午前)
女「お気をつけて」
お化けに扮した受付の女子生徒から見送られて中に入る。真っ暗な室内。恐る恐る歩いていくと井戸から髪の長い女のお化けが出てくる。
芽衣・佐倉「キャー!」
腕を組みながら進む芽衣と佐倉。今度は障子から出てくる無数の手。
芽衣「わーっ!掴まれてる!」
佐倉「足首が!」
お化け屋敷も終盤。見るからに怪しそうな棺桶に近づくと中に入っていたドラキュラが起き上がってくる。
芽衣・佐倉「ギャー!」
そのまま出口まで駆け抜ける。
芽衣「はぁー、びっくりした!」
佐倉「結構、怖かったね」
そんな仲睦まじく身を寄せ合っている芽衣と佐倉の前に現れた怜王。
怜王「ちょっとこの子と話があるんだけどいい?」
佐倉から芽衣を引き離して肩を抱き寄せる怜王。負けじと芽衣の腕を引っ張る佐倉。
佐倉「これ以上、針山さんのこと振り回さないでください」
お化けも慄く険悪な雰囲気にビクビク怯えている芽衣。
男「佐倉、ちょっと来てー!」
この場を去りたくない佐倉は葛藤している。しかし、そんな佐倉に追い打ちをかけるようにもう一度呼ばれる。
怜王「お呼びのようですけど?」
仕方なく佐倉は掴んでいた芽衣の腕を離す。
佐倉「針山さんに悲しい顔させるなよ」
いつも穏やかな佐倉が荒々しい言葉で釘を刺して立ち去る。

〇学校・階段下(午前)
芽衣の腕を引いてズンズン歩いていく怜王。
芽衣(獅子尾くん怒ってる…?)
人があまり通らないところまで来ると芽衣を壁際に追い込む怜王。
怜王「俺以外の男に慣れるなよ」
芽衣「…ズルいよ、獅子尾くんだって女の子と抱き合ってたのに」
怜王「そんなことしてな…あー、あれは劇の練習」
芽衣「へっ?」
怜王のクラスは文化祭で劇をすることになり、その練習の一部を目撃した芽衣が勘違いしてしまったのだ。
怜王「それで最近、避けられてたってこと?」
申し訳なさそうに頷く芽衣。一安心した怜王は覆い被さるように芽衣を抱きしめる。すっぽり収まる芽衣。
芽衣「あ、あの、これは?」
怜王「仲直りのハグ」
芽衣「な、なるほど?」
控えめに手を添えるだけの芽衣。
芽衣(やっぱり、獅子尾くんは近すぎますっ!)

〇学校・教室(午後)
自分の担当時間を終えて教室を出ようとした朱里。タイミングを見計らったように現れる友樹。
友樹「ちょーっと話があるんやけど」
朱里(めっちゃ笑顔だけど、目が笑ってない!)

〇学校・空き教室(午後)
友樹「最近、俺らのこと避けてるやんな?」
図星で返す言葉もなく黙り込む朱里。
友樹「もし、俺が何かしたなら謝るから教えてくれへん?」
朱里(自分の気持ちから逃げて、こんなに真っ直ぐな人のこと避けて、私何やってるんだろう)
朱里「…私が勝手に嫉妬しただけ」
友樹「え?どういうこと?」
朱里「あとは自分で考えて!」
友樹「なになに?教えてやー!」
逃げる朱里と追いかける友樹。
友情の危機を乗り越えたそれぞれの想いは少しずつ変化していく。