〇帰り道(放課後)
隣に並んで歩く芽衣と怜王。
芽衣(まだ、ふたりきりは緊張するよ!朱里、助けてー!)
今日は委員会で一緒に帰れない朱里。
芽衣「いい天気ですねー…」
苦し紛れに言った途端に雲行きが怪しくなり、ポツポツと降り出した雨。
怜王「雨だな」
どんどん雨の勢いは強くなり土砂降りになる。
怜王「走るぞ」
芽衣「わっ!」
芽衣の手首を掴んで走り出す怜王。それに一生懸命ついていく芽衣。
屋根がある場所に駆け込み雨宿りをする。
怜王「結構、濡れたな」
濡れて肌に張りついた制服のシャツ。怜王はバッグの中からジャージを取り出して芽衣に羽織らせる。
怜王「洗濯したやつだから」
芽衣「でも獅子尾くんが…」
心配そうな芽衣に近寄り密着する怜王。
怜王「俺はこうするから大丈夫」
芽衣(近すぎて私の心臓が大丈夫じゃないです!)
一向に止まない雨はさらに強さが増していく。
怜王「もうちょっと走れる?」
頷いた芽衣の頭にジャージを被せると腕を引いて再び走り出す怜王。芽衣は怜王の匂いがするジャージに包み込まれていた。
芽衣(獅子尾くんの匂いがする…)

〇怜王の家・玄関(放課後)
怜王「ここ俺の家だから入って」
芽衣「えぇー!?」
ぽかんと口を開けて立ち尽くす芽衣を家の中へ入れる怜王。
姉「おかえりー…ってあんたびしょ濡れじゃない!」
急いでタオルを取りを持ってきて、わしゃわしゃと怜王の頭を拭いている女性。
ブロンドヘアにバッチリメイクでお洒落な女性は怜王の姉。
姉「あれ?あー!もしかして!?」
芽衣を見て弟の大切な人だろうと察して盛り上がる姉。
余計なことを言わないように怜王は姉の口を押さえる。
姉に向かって深々と頭を下げる芽衣。
芽衣「お、お邪魔します!」
怜王の手を振り払って芽衣に近寄る姉。
芽衣(さすが姉弟!お姉さんも距離が近い!)
姉「うちの弟がいつもお世話になってま〜す」
芽衣「こちらこそ、です!」
姉「ふふ、かわいい〜」
お風呂を案内してくれたり、制服を干しておいてくれたり、部屋着を貸してくれたりと芽衣の面倒を見てくれる姉。

〇怜王の家・リビング(放課後)
ソファに座って待っている怜王。いつもとは違う服装で戻ってきた芽衣に目を奪われる。
姉「あんたもお風呂行っておいで」
怜王「余計なこと言うなよ」
すれ違うとき姉にだけ聞こえるように釘を刺してお風呂に向かう怜王。
オレンジジュースを飲みながら姉と話す芽衣。
姉「あの子、迷惑かけてない?」
芽衣「いえ!いつも助けてもらってばかりで…」
芽衣(ちょっと近すぎるのは困るけど)
姉「これからも仲良くしてあげてね」
芽衣「こちらこそよろしくお願いしますっ!」
姉「ふふ、芽衣ちゃんになら安心して任せられるわ」
怜王がお風呂から戻ってくると立ち上がって慌ただしく出かける準備をする姉。
姉「あ、私これから用事あるんだった!芽衣ちゃん、ゆっくりしてってね!」
芽衣「いろいろとありがとうございました!」
姉「またお話しようねー!」
手を振って出ていく姉。芽衣も控えめに手を振り返す。
ふたりきりになったリビング。怜王は首からかけたタオルで雑に頭を拭きながら芽衣の隣に座る。芽衣は姿勢を正して真っ直ぐ前を向いている。
怜王「姉貴に変なこと言われてない?」
思いっきり首を横に振る芽衣。
怜王「騒がしいけど、優しくて頼りになるんだよな」
芽衣(やっぱり姉弟って似てるんだな、獅子尾くんも優しくて頼りになるもん)

〇学校・屋上(昼休み)
翌日。お昼ごはんを食べている芽衣と朱里。そこに遅れてやってきた友樹。
朱里「あれ、獅子尾は?」
友樹「朝からダルかったらしくて、保健室で休んでる」
昨日のことを思い出す芽衣。
芽衣「あっ!もしかして…ちょっと行ってくる!」
芽衣は急いで保健室に向かった。

〇学校・保健室(昼休み)
保健室のドアに[外出中]のドアプレートが掛かっている。小声で挨拶をして保健室に入る芽衣。
芽衣「失礼しまーす…」
奥にあるベッドだけカーテンが閉まっている。芽衣はカーテンをゆっくり開けて近くにあった丸椅子に座る。
目を閉じていると一際長く感じるまつ毛に綺麗な鼻筋。
芽衣は引き寄せられるように怜王に近づく。
怜王「近すぎ」
目を開けた怜王。慌てて離れる芽衣。
芽衣「ご、ごめんなさいっ!」
怜王「キスしてくれるのかと思った」
意地悪な笑みを浮かべる怜王。
怜王「心配して来てくれたの?」
芽衣「何かできることがあればと思って…」
怜王「じゃあ、もう少しそばにいてよ」
芽衣「は、はいっ…!」
それから昼休みが終わるまで芽衣は怜王のそばにいた。

〇学校・屋上(昼休み)
朱里「もう体調は大丈夫なの?」
芽衣を見て微笑む怜王。
怜王「針山のおかげで元気になった」
友樹「え、ハリちゃん何したん!?」
芽衣「いや、私は何も!」
このときは、仲睦まじい関係にヒビが入るだなんて誰も思っていなかった。