〇学校・教室(昼休み)
スクールバッグからお弁当を取り出す芽衣。ハリネズミのマスコットが背中を向けていることに気づいて直す。
あの日のことを思い出して笑みが溢れる芽衣。
朱里「芽衣、行くよー」
芽衣「あ、うんっ!」

〇学校・屋上(昼休み)
朱里「素敵な出会いないかな」
芽衣「もう懲りたんじゃなかったの?」
朱里「次は大丈夫らしいから」
友樹を見て笑う朱里。
芽衣「なにそれ?」

〇学校・教室(放課後)
帰る準備をしている芽衣。
芽衣「あれ?」
昼休みまでスクールバッグについていたハリネズミのマスコットが無くなっている。
朱里「どうしたの?」
芽衣「ハリネズミいなくなっちゃった」
朱里「あの、お揃いの?」
芽衣「うん、探してくる!ごめん、先に帰ってて!」
芽衣の肩をポンっと叩く朱里。
朱里「なに言ってんの、私も一緒に探すに決まってるでしょ」
朱里に思いっきり抱きつく芽衣。
芽衣「ありがとう!持つべきものは幼馴染だよ!」
朱里「はいはい、最後に見たのは?」
芽衣「んー、昼休みかな」
朱里「落とした場所に心当たりは?」
考えてみるも心当たりがなく首を横に振る芽衣。
朱里「そっか、じゃあ教室から探してみよう!」
ロッカーや机の下、カーテンの中など教室の隅々まで探してみたが見つからなかった。しょんぼりと落ち込む芽衣。
朱里「まだ諦めちゃダメ!」

〇学校・廊下(放課後)
廊下や階段、昇降口などスクールバッグを持って歩いた道を辿り探してみるが、それらしきものは落ちていなかった。トボトボと歩く芽衣。
芽衣「どこいっちゃったのかな…」
目の前から歩いてくる怜王と友樹。
友樹「ハリちゃん元気ないやん、何かあったん?」
深く頭を下げる芽衣。
芽衣「獅子尾くん、ごめんなさいっ!」
怜王「どうした?」
芽衣「ハリネズミいなくなっちゃって…」
怜王のスクールバッグについているライオンのマスコット。その友達は現在、行方不明。
怜王「針山が大切にしてくれてたのはわかってるから、気にするな」
芽衣「で、でも…」
怜王「俺も探してみるから見つかるまでこの子、預かっといて」
怜王は自分のスクールバッグからライオンのマスコットを外して芽衣に渡す。

〇学校・ゴミ捨て場(放課後)
その翌日、思いもよらぬ形でハリネズミは見つかった。
教室の掃除が終わりゴミを捨てにきた芽衣。ゴミ箱を傾けようとしたそのとき、ハリネズミのマスコットがあることに気づいた。芽衣は急いで救出する。
芽衣「どうしてここに…」
ゴミと一緒に捨てられていたハリネズミのマスコットは、なぜかお花のようないい香りがした。

〇芽衣の部屋(夜)
芽衣は家でぬいぐるみを洗う方法を調べてその通りに実践した。ゴミ箱に捨てられていたとはわからないほど綺麗になったが、芽衣はの気持ちはスッキリしなかった。
どうしてゴミ箱に捨てられていたのか。モヤモヤした気持ちが晴れることはないまま朝を迎えた。

〇学校・教室(朝)
芽衣のスクールバッグについているハリネズミのマスコットを見て嬉しそうに駆け寄ってくる朱里。
朱里「見つかったの!?」
芽衣「う、うん」
朱里「どこにあったの?」
芽衣「えっと、外に落ちてた」
芽衣の様子がおかしいことに気づいた朱里は、しっかりと目を見てもう一度聞く。
朱里「本当に?」
幼馴染の朱里には隠し通すことができず、昨日あったことを正直に話す芽衣。
芽衣「昨日の放課後…」
朱里「はぁ!?なにそれ!?」
怒りを露わにする朱里。
芽衣「やっぱり、偶然じゃないよね?」
朱里「そんなの誰かがわざとやったに決まってるでしょ」
改めて故意に捨てられた事実に落ち込む芽衣。
芽衣「獅子尾くんに言ったら悲しませちゃうかな?」
朱里「悲しませればいいのよ」
芽衣「え…?」
朱里「友達っていうのは、嬉しいことがあったら一緒に喜びたいし、ムカつくことがあったら一緒に怒るの、それは悲しいときも一緒だよ」
朱里「友達なんでしょ?」
芽衣は大きく頷き、怜王に話す覚悟を決めた。

〇学校・屋上(昼休み)
怜王から預かっていたライオンのマスコットを返す芽衣。
芽衣「ありがとうございました」
怜王「見つかったの?」
芽衣は綺麗に洗ったハリネズミのマスコットを見せる。
友樹「よかったやん!」
怜王「どこで見つけたの?」
芽衣「実は…」
昨日の出来事を嘘偽りなく全て話した。
友樹「はぁ!?何なんそれ!?」
朱里と同じように怒りを全面に出す友樹。
悲しそうな表情で芽衣が持つハリネズミのマスコットを撫でる怜王。
芽衣「もう手放しません」
ハリネズミのマスコットが帰ってきて一件落着かと思いきや、怒りが収まらない様子の朱里と友樹。
朱里「誰がこんなことしたのか突き止めよう」
友樹「そうやな、謝ってもらわな気が済めへん」
こうしてハリネズミ誘拐事件の犯人を捜すことになった。

〇学校・教室(放課後)
ゴミ捨て場にハリネズミのマスコットを捨てた人物は見ていないかと聞いてまわるが、なかなか目撃情報を得ることができず困っていた。
すると女子生徒から声をかけられる。
女「あの、私見たんですけど…」

〇(回想)学校・廊下(朝)
女子生徒が廊下を歩きながらふと窓の外を見るとゴミ捨て場でハリネズミのマスコットらしき物を捨てた人がいた。

〇学校・教室(放課後)
女「私が見たのは、葉月さんです」
あの清楚な美少女が嫌がらせをするなんてイメージがなく、驚きを隠せない一同。情報提供をしてくれた女子生徒が帰った後の教室は、重々しい空気に包まれていた。
朱里「これだけで葉月さんがやったって確定したわけじゃないけどさ…」
友樹「あの子が俺らに嘘つくメリット無いんよな」
怜王「直接聞いてみるか」
芽衣「私が行く!」
机に手をついて勢いよく立ち上がる芽衣。
朱里「私たちも一緒に行くよ」
芽衣「一対一で話したいの」
覚悟を決めた芽衣の表情を見て止める者はいなかった。

〇学校・空き教室(昼休み)
翌日。空き教室に葉月を呼んだ芽衣。
お互いにこやかに笑っているが、穏やかとは言い難い雰囲気が漂っている。
芽衣「素敵な香りですね」
葉月「オーダーメイドでお気に入りの香水なの」
芽衣「知ってますか?ハリネズミって嗅覚が優れてるんです」
葉月「それがどうかしたの?」
芽衣「このマスコットからも同じ香りがしたんです」
今まで笑顔を崩さなかった葉月の顔が引き攣る。さらに畳み掛ける芽衣。
芽衣「私たち、初対面なのにどこで香りが移ったんでしょうか?」
葉月の笑顔がスッと消えて真顔になる。あの清楚な葉月の化けの皮が剥がれて嫉妬が滲み出す。
葉月「気に入らなかったのよ!この私が振られて、あんたみたいなのが獅子尾くんの隣にいるのが!」
芽衣に掴み掛かろうとする葉月。反射的に芽衣は目をギュッと閉じる。
しかし、衝撃はなくゆっくりと目を開けると葉月の腕を掴んで制止している怜王がいた。
葉月「な、なんで獅子尾くんがここに…!?」
顔面蒼白の葉月。
怜王「俺、言ったよね?友達といるのが楽しいって」
芽衣の肩を抱き寄せる怜王。
怜王「俺の大事な友達のこと、これ以上傷つけるな」
今まで見たことのない鋭い目つきで威圧する怜王。
葉月「す、すみませんでした!」
あまりの恐怖に震えながら教室を飛び出した葉月。
さっきの鋭い目つきが怖くておずおずと怜王を見上げる芽衣。それが嘘かのように優しく微笑む怜王。
怜王「ごめん、怖かった?」
芽衣「…ちょっとだけ」
芽衣の頭をポンポンする怜王。
怜王「よく頑張った」
甘い雰囲気の中、廊下から見守っていた朱里と友樹は入るタイミングを見失っていた。